歴史や成り立ちで違う、古い町並みの種類 ~城下町、宿場町、寺内町などについて解説~

町並み解説
町並み解説

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 このサイトでもいくつも紹介している「古い町並み」(歴史的町並み)ですが、その歴史や成り立ちによっていくつもの種類があり、風景にもそれぞれ特徴があります。

 例えば、数多くみられる「城下町」であれば、城を中心に武家町や商人町、寺町などが計画的に配置されていたりして、同じ町の中でも区域によって全く違う景観が見られたりもします。
 兵庫県の丹波篠山などが、その代表的な例ですね。

 一方、こちらも各地に残る「宿場町」であれば、街道に沿って長細く市街が続く場合が多くて、伝統的な家屋が直線的にずらりと並ぶような景観が特徴的。
 地方によって家屋の形式が大きく違うため、同じ宿場町でも、例えば福島県の大内宿と長野県の奈良井宿とでは全く景観が違っていたりします。

 この記事では、そんな古い町並みの種類について、このサイトに掲載している町並みなどから実際に例を挙げて解説して行きます。
 いつもの紹介記事とはまた少し違った視点で、古い町並みの魅力に触れていただくことができればと思います。

城下町(陣屋町)と、その中心だった武家町

様々な機能の区域が集まって出来た、城下町(陣屋町)の基本の形

兵庫県の城下町、丹波篠山の「河原町妻入商家群」の町並み
兵庫県の城下町、丹波篠山の「河原町妻入商家群」の町並み(画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます)
  • 城や陣屋を中心に、計画的に造られたのが城下町(陣屋町)
  • 武家町や商家町、寺町などの性質の異なる区域が集まってできている。
  • 城下町を象徴するのが武家町の町並みで、武家屋敷の板塀や生け垣などが通りに沿って続く、独特の景観が残る。

 大名が構えた城や、小規模な大名や家臣などが構えた「陣屋」や「要害」などを中心に造られた町を、「城下町」「陣屋町」といいます。
 その多くは、城や陣屋を中心に計画的に造られた町で、町の経済的な振興や防衛上の理由などから、性質の異なる区域が、町の中に意図的に配置されているのが特徴的です。
 言い換えれば、さまざまな性質を持つ町が複合してできている都市が城下町であるとも言えます。

 兵庫県の丹波篠山の例で言えば、城の南側と西側が武士の住まいが集まっていた「武家町」に当たり、特に西側の「御徒士町武家屋敷群」には今でも武家屋敷が並ぶ風景が見られます。

 また、城の東側に伸びる笹山街道沿いは、町人の町である旧「商家町」となっていて、妻入の立派な商家が並ぶ風景(「河原町妻入商家群」)が見られます。

(丹波篠山市公式サイトから引用の上、文字を追加)

https://www.city.tambasasayama.lg.jp/soshikikarasagasu/bunkazaika/denken/5796.html
(丹波篠山市公式サイト)

 町人町としては、職人が集められた「職人町」が配置されている場合も多く、富山県の高岡の城下町にある「金屋町」(鋳物師が集められた)や、岐阜県の郡上八幡の「職人町」などに古い町並みが残ります。
 他にも、城下町の外れに寺院を集めて防衛拠点とした「寺町」が作られている例も、弘前や金沢、伊賀上野など各地に見られます。

 また、飛騨高山のように元々は城下町だったのに、廃城後に商家町などが大規模に残り、江戸幕府直轄の天領として陣屋が置かれて発展を続けるような例もあります。

高岡の古い町並みを歩いてみよう ~鋳物製造で知られる城下町~(富山県)

富山県・高岡(金屋町)の町並み
富山県・高岡(金屋町)の町並み(画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます)

高山・三町の古い町並みを歩いてみよう ~観光客にも人気の飛騨の城下町~(岐阜県)

岐阜県・飛騨高山(三町)の町並み(画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます)

塀や生け垣が続く、武家町の町並み

 その名の通り、武家町とは武士の住まいであった武家屋敷が集まる区域(武家地)で、城下町の中でも城により近い、中心的な区域に配置されていました。
 武家町の古い町並みは、城下町を象徴する風景の一つと言っても良いでしょう。 

 城下町に置かれた武家町には、先ほど解説した丹波篠山以外にも、以下のような例があります。

  • 秋田県 角館「内町武家屋敷通り」……広い通りに沿って黒板塀が続く、みちのくの小京都
  • 宮城県 登米前小路……明治期の洋風建築で知られるが、城下町としての姿も残る
  • 長野県 松代清州町・代官町ほか……真田家十万石の史跡が多く残る、信州の城下町
  • 石川県 金沢「長町」……犀川のそばに、瓦屋根を載せた土塀や門が続く町並みが見られる
  • 山口県 萩「堀内・平安古」……市街地自体が「萩城城下町」として国の史跡に指定されている
  • 島根県 津和野殿町通り……水路を鯉が泳ぐ風景で知られる、大規模な武家屋敷群

(角館・萩のリンク先は「まちなみ街道」の解説ページ)

 通りに沿って板塀や土塀、石垣や生け垣などが続き、その向こう側に守られるように武家屋敷の主屋などが建っている、というのが多くの武家町に共通して見られる風景です。

 中には、長い年月の間に家屋がなくなってしまって塀だけが残っている、ということもあるのですが、そのような場合でも景観の統一が保たれて、町並みの連続性が失われずに済むのが、武家町の景観の特徴であるとも言えます。

 なお、同じ武家町の中でも、上級武士の住まう区域と中・下級の武士が住む区域とは区分されています。
 丹波篠山の例で言えば、城の西側に南北に伸びる御徒士町は城の警護を行う武士の住む区域で、上級の武士はよりお堀に近い場所に住んでいました。

丹波篠山の古い町並みを歩いてみよう ~城下町の武家屋敷と商家~(兵庫県)

丹波篠山・御徒士町武家屋敷群
丹波篠山の武家町・御徒士町武家屋敷群(画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます

金沢の古い町並みを歩いてみよう ~多様な町並みが残る、加賀百万石の城下町~(石川県)

金沢・長町武家屋敷跡
金沢・長町武家屋敷跡画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます

城下町の外にあった武家町、麓集落

 武家町は必ずしも、城下町や陣屋町の中だけにあるわけではなく、鹿児島(薩摩)の「麓集落」のように、領地のあちこちに武家町を作って武士をまとめて住まわせることで、藩による統治の拠点とした例(外城制)もあります。

「麓集落」として特に有名なのが、重要伝統的建造物群保存地区(重伝建地区)に選定されている「知覧麓」「入来麓」「出水麓」の三箇所です。

知覧麓の古い町並みを歩いてみよう ~庭園のような武家屋敷町を歩く~(鹿児島県)

鹿児島県知覧麓
鹿児島の麓集落の代表例、知覧麓の風景(画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます

城下町や在郷町の経済の中心、商家町

青森県黒石市中町こみせ通り
青森県黒石の商家町「中町こみせ通り」(画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます

城下町の中に配置された商家町

 商人の屋敷などが集まり、商業の拠点となっていた町が商家町です。
 武家地であった武家町と同じく、町人地の一部として城下町の中にも配置され、地域の経済を支えていました。

 城下町に置かれた商家町の古い町並みとしては、先ほども取り上げた兵庫県丹波篠山の「河原町妻入商家群」以外にも下記のような例があります。
 これらの他にも多くの城下町に、商家町の町並みが残っています。

  • 滋賀県 近江八幡新町通り……近江商人が暮らした商家の町並みがそのままの姿で残る
  • 福岡県 八女福島紺屋町……白壁・土蔵造りの妻入りの商家が連続する様子が壮観
  • 青森県 黒石中町こみせ通り……大規模な商家群と「こみせ」が残る陣屋町

 また、「うだつの町並み」として知られる徳島県美馬市の脇町南町(リンク先は「まちなみ街道」)のように、城下町が衰退した後も商家町が残って発展を続け、在郷町となったケースもあります。
(いずれも国の重要伝統的建造物群保存地区)

近江八幡の古い町並みを歩いてみよう~「八幡掘」が美しい城下町~(滋賀県)

近江八幡市 新町の町並み
滋賀県近江八幡の商家町「新町通り」(画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます

在郷町の中心、産業に特化した商家町

 商家町は城下町の中に置かれただけではなく、農村部などにおける商工業の拠点として発展した「在郷町」の中心部として商家町が存在していた場合も数多くあります。
 在郷町の商家群の代表例が、紅花を初めとした商業で栄えた宮城県の村田町(リンク先は「まちなみ街道」の解説ページ)や、木材の集散地として茨城県の真壁などで、いずれも蔵造りの重厚な商家がいくつも見られます。

 商家町が独立して発展し、きわめて大規模な商業都市となった例が岡山県の倉敷で、倉敷川(運河)による水運の拠点としての重要性から、江戸時代には幕府の陣屋が置かれて天領となりました。

倉敷の古い町並みを歩いてみよう ~かつての運河、倉敷川沿いの蔵屋敷~(岡山県)

岡山県倉敷の美観地区の風景(画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます

 在郷町の場合、特定の産業などに特化した形で町が発展して出来上がっていくことも多く、以下のように細かく分類されることがあります。
 これらの町にもまた、立派な商家群が見られます。

(有田内山と加悦のリンク先は「まちなみ街道」の解説ページ)

内子の古い町並みを歩いてみよう ~木蠟の生産で全国に知られた町~(愛媛県)

愛媛県内子町八日市護国の町並み
愛媛県内子町、八日市護国の町並み(画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます

街道沿いの拠点だった宿場町

長野県奈良井宿の町並み
長野県、奈良井宿の町並み(画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます

江戸幕府による管理が行われていた宿場町

 江戸時代には、東海道・中山道・山陽道・日光道中・奥州道中・甲州道中の「五街道」をはじめとする街道が幕府直轄で各地に整備され、諸国の大名による江戸への参勤交代に使われました。

 それらの街道沿いに置かれた宿泊地である宿場の周辺に発達したのが「宿場町」です。
 こちらも幕府による管理が行われ、大名一行の宿泊所である「本陣」「脇本陣」やその他の旅籠、荷物輸送のための問屋場などが整備されました。
 宿場の設置はあくまで許可制で、幕府による認定がなければ宿場を作ることはできませんでした。

 宿場町は単なる宿泊地であっただけではなく、街道の拠点として商家なども多数集まり、在郷町と同じく周辺地域の中心として発展を見せた例も多くありました。
 城下町などと同じく、計画的に整備された都市の一つの形だったと言えます。

奈良井宿の古い町並みを歩いてみよう ~中山道の難所・木曽路の宿場町~(長野県)

長野県、奈良井宿の町並み(画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます)

通りに沿って長く連なる町並み

 街道沿いに発展した町ということで、その町並みも通りに沿って長細く続くものになります。
 東海道の関宿や中山道の奈良井宿など、かつての姿を良く残している宿場町では、通りに沿って伝統的な木造家屋が延々と建ち並ぶという、非常に迫力のある歴史的な景観を見ることができます。

 宿場町の中を通る通り(街道)は、必ずしも一直線という訳ではなくて、所々に枡形というクランク上の屈曲がもうけられていたりもします。
 また、生活用水にも使われる水路が、通りに沿って流れていたりするのも特徴的です。 

熊川宿の古い町並みを歩いてみよう ~京料理を支えた鯖街道の宿場町~(福井県)

福井県、鯖街道(若狭街道)の熊川宿(画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます

地域によって、景観に大きな違いがある場合も

 通りに沿って家屋が並ぶ、という点ではほぼ共通している宿場町の町並みですが、その家屋自体には各地方によってそれぞれ異なる特徴があるため、町並みの見た目には大きな違いが生まれることがあります。
 各地方に残る、代表的な宿場町の町並みの特徴を、以下にいくつか挙げてみます。

  • 福島県 大内宿(会津西街道)……茅葺きの家屋が、広々とした通りに沿って並ぶ
  • 新潟県 出雲崎(北国街道)……海沿いに長く続く通りに面して、妻入りの三角屋根が続く
  • 長野県 奈良井宿(中山道)……「出梁造り」の不ぞろいな軒線が、緩やかな坂道に沿って続く
  • 三重県 関宿(東海道)……華やかな意匠の虫籠窓などが目を引く、旅籠の建物が残る
  • 福井県 熊川宿(若狭街道)……京都につながる鯖街道の宿場町で、家屋に京文化の影響が見られる
  • 鳥取県 用瀬(因幡街道)……街道に並行して流れる水路(瀬戸川)沿いに沿って蔵などが建つ
  • 熊本県 山鹿(豊前街道)……青みがかった漆喰の壁が特徴的な商家が残る。温泉場としても有名

(関宿のリンク先は「まちなみ街道」の解説ページ)

 宿場町は数が多いので、これだけでは全く紹介しきれませんが、それぞれに個性豊かな町並みが見られる、ということはお分かりいただけたかと思います。

大内宿の古い町並みを歩いてみよう ~茅葺き屋根が連なる宿場町~(福島県) 

福島県、会津西街道の大内宿(画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます

山鹿の古い町並みを歩いてみよう ~「さくら湯」がシンボルの温泉場~(熊本県)

熊本県、豊前街道の山鹿(画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます)
三重県、東海道の関宿

宿場にはカウントされない「間の宿」

 宿場と宿場の間に、公式には宿場としてはカウントされない休憩場所としての集落が生まれる場合がありました。
 つまり東海道53次や、中山道69次以外にも、宿場町のように通りに沿って茶屋などが並ぶ集落が存在したわけです。これを、「間の宿(あいのしゅく)」とか「枝郷」などと呼びます。
 これらは幕府非公認のため、旅籠を設けることはできず、宿泊は禁止されていました。とは言え、幕府が何度も禁令を出して取り締まったことからも、実際には客を泊めることがあったようです。

 愛知県の有松(東海道、池鯉鮒宿と鳴海宿の間)や長野県の木曽平沢(中山道、贄川宿と奈良井宿の間)のように織物や漆塗の町としても発展し、非常に立派な町並みが残る「間の宿(枝郷)」も存在するため、非公認だからと言って寂れた雰囲気だったという訳ではなさそうです。
 有松などは、尾張藩が奨励して造らせた間の宿だったようで、現在では隣の池鯉鮒宿、鳴海宿よりもむしろ見事な町並みが残ります。

 東海道には他にも、難所の宇津ノ谷峠の麓にも、坂道に沿って茶屋などが並んだという間の宿の景観が残されています。

木曾平沢の古い町並みを歩いてみよう ~漆器店が通りに並ぶ宿場町~(長野県)

長野県、中山道の間の宿、木曾平沢(画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます
静岡県、東海道の間の宿、宇津ノ谷(画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます
愛知県、東海道の間の宿、有松

お寺や神社の周囲に発達した門前町や寺内町

参道沿いに町が生まれた門前町

 室町時代から江戸時代の頃にかけて、一般庶民が観光を兼ねて有名な寺院や神社を参拝するという習慣が生まれると、それら寺院などの参道には、参拝客相手に商いを行うお店や宿泊施設などがいくつも集まるようになりました。
 こうして発達した町を、「門前町」と呼びます。(神社の場合は「鳥居前町」と呼ぶ場合もあります)

「門前町」の古い町並みの特徴は、参道に沿って並ぶ商店などの伝統的な家屋と、その先にある社寺の建物や鳥居、山門といった構造物が一体となって景観を作っていることで、宗教都市的な荘厳さが感じられたりもします。

 参道などに古い町並みが残る門前町の例としては、以下のような町があります。

  • 長野県 長野市善光寺門前町(善光寺)……善光寺詣りで賑わう、全国有数の規模を誇る門前町
  • 愛知県 津島市(津島神社)……津島湊の港町としても栄えた、津島神社の門前町
  • 三重県 伊勢市おはらい町(伊勢神宮)……観光地としても古い歴史を持つ、伊勢内宮の門前町
  • 京都府 京都市産寧坂(清水寺)……京都を代表する古い町並みが残る、清水寺の門前町
  • 広島県 廿日市市宮島(厳島神社)……社家の住まいも見られる、世界遺産・厳島神社の門前町

(津島以外のリンク先は「まちなみ街道」の解説ページ)

津島の古い町並みを歩いてみよう ~天王川の水運で栄えた津島神社の門前町~(愛知県)

愛知県津島の町並み(画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます

京都市産寧坂の町並み

僧侶や神官の住む町(里坊群、社家町)が発達する場合も

 寺院や神社の周囲には、僧侶や神官などの住居が集まって一つの町を形成している場合もあり、こちらもまた独特の景観が見られます。

  • 滋賀県大津市坂本
     比叡山延暦寺の門前町で、僧侶の住まいである「里坊」が多数集まり(里坊群)、穴太衆による石垣が通りの坂道に沿って大規模に続きます。
  • 京都府京都市上賀茂
     上賀茂神社の社家町で、神官の住まいである「社家」が御手洗川の水路に沿って並びます。それぞれの門の前に、小さな石橋が架かるのが特徴的です。
  • 島根県出雲市大社町真名井
     出雲大社の社家町で、「真名井の社家通り」などと呼ばれます。
     北島国造家周辺の、立派な石垣と板塀が続く風景は、なかなか見事なものです。

 社家町としては他にも、奈良の春日大社に隣接する高畑町や、広島の宮島にある厳島神社の滝小路などの例があります。
(リンク先は「まちなみ街道」の解説ページ)

滋賀県大津市坂本の町並み

寺院を中心とした自治都市、寺内町の大規模な町並み

 寺院(御坊)を中心とした町の一つとして、「寺内町」というものがあります。
 これは、町全体をお寺の領域として環濠や土塁で囲み、その内部に信徒や商人などを住まわせて計画的に造った都市で、いくつかある門だけが外部との出入り口になっていました。
 海外の城郭都市などを思わせるような、閉鎖的な構造になっていたというのが興味深いですね。

三重県津市 一身田寺内町の案内図

 浄土真宗などの寺院(御坊)を中心とする寺内町は、関西(畿内)の周辺に多く造られましたが、その町並みが大規模に残っている場所が今でも何か所かあります。

  • 三重県津市 一身田……現役の宗教都市の雰囲気がある、高田派本山専修寺を中心とする寺内町
  • 奈良県橿原市 今井町……現存する寺内町の町並みとして、最大の規模を誇る自治都市
  • 大阪府富田林市 富田林町……今井町に匹敵する規模の町並みが残る、興正寺を中心とする寺内町
  • 大阪府八尾市 久宝寺……整然とした町割りが当時そのままの、顕証寺を中心とする寺内町
  • 大阪府貝塚市 貝塚……かつては最大級の規模を誇った、願泉寺を中心に発展した寺内町

(一身田・今井町・久宝寺・貝塚のリンク先は「まちなみ街道」の解説ページ)

 今井町や富田林町は、寺内町がそのまま地域の商業の中心地となって発展した例で、全国的にもまれと言っていいほどの極めて大規模な古い町並みが残っています。
 計画的に造られた町ということで、綺麗な碁盤の目状に南北・東西の通りが張り巡らされた通りに沿って、国の重要文化財にも指定されているような、商家などの重厚な家屋がいくつも残っていたりします。

 もちろん現在では、門からしか出入りができないなどということはありませんが、環濠の内部に入ると全く空気や景観ががらっと変わったりするのが、ちょっとわくわく感があったりします。

富田林寺内町の古い町並みを歩いてみよう ~どこまで歩いても寺内町~(大阪府)

大阪府富田林市 富田林寺内町の町並み(画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます
奈良県橿原市今井町の町並み
三重県津市 一身田寺内町の町並み

海辺や川岸に発達した、港町・漁村集落の町並み

北前船などが寄港して栄えた港町

 古くから水運や漁業の拠点として利用されてきた港の周囲にも、古い町並みが残っている場合が多く見られます。
 波止場や雁木(船着き場として使われる、水面に面した石段)などの港湾施設を中心に、物資を保管した蔵や、廻船問屋などの立派な商家の建物がいくつも残るというのが特徴で、最も典型的な景観が見られるのが、広島県の鞆や大崎上島の御手洗などです。

 江戸時代には、江戸や大阪を中心として全国各地を結ぶ、西廻り・東廻りの航路が整備されました。
 大阪を起点に、瀬戸内海から日本海を経由して北海道(蝦夷地)や東北方面を結んだ、西廻りの航路を航行する船は「北前船」とも呼ばれ、その寄港地であった以下のような港町には、船主集落などの古い町並みが残されています。

 それらの多くは、航行に適した気候や海流を待つための「風待ち」「潮待ち」の港町としての役目を持っていました。

  • 北海道江差町 江差……北前船の寄港地として繁栄した港町。回船問屋の立派な屋敷が残る
  • 新潟県出雲崎町 出雲崎……妻入り家屋の町並みが果てしなく続く、天領の港町
  • 石川県加賀市 加賀橋立……北前船の運航で富を得た、船主が建てた屋敷が集まる集落
  • 福井県南越前町 河野……北前船主の邸宅が集まる海岸沿いの集落
  • 福井県小浜市 小浜……「鯖街道」を介して京の都と結ばれていた、歴史ある港町
  • 広島県福山市 ……歴史ある景勝地のそばに佇む、「海のある古都」
  • 岡山県倉敷市 下津井……瀬戸内海航路の要衝として栄えた、風待ち・潮待ちの港町
  • 兵庫県たつの市 室津……行基が開いた「摂播五泊」の一つで、瀬戸内海航路の重要拠点だった

(江差・加賀橋立・河野のリンク先は「まちなみ街道」の解説ページ)

鞆の古い町並みを歩いてみよう ~「ポニョ」の舞台としても知られる景勝地~

広島県福山市鞆の風景
広島県福山市鞆の風景(画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます

下津井の古い町並みを歩いてみよう ~ミニ電鉄も走った、瀬戸大橋の麓の町~(岡山県)

岡山県倉敷市下津井の風景
岡山県倉敷市下津井の風景(画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます

洋風建築群が残る、「開港五港」の港町

 明治維新の直前、1858年の「安政五か国条約」によって開かれた港を「開港五港」と言って、下の五つの港が条約港として定められました。
 それらの港がある町は、世界に対して開かれた、国際貿易都市として発展することになったわけです。

 これらの町には、いずれも洋風建築などの集まる一画があり、異国情緒を感じさせる風景が見られることで知られています。
 函館、神戸、長崎についてはいずれも洋館群が重伝建地区に選定されており、「日本三大夜景」の町であるという共通点も。
 また、横浜・神戸・長崎には「三大中華街」がある(函館にも中華会館がある)など、様々な面で似通ったところのある町だと言えるでしょう。

※ 日米・日露和親条約締結の地ともなった最初の開港地、伊豆の下田は開港五港にはならず。
横浜・神戸・長崎のリンク先は「まちなみ街道」の解説ページ)

函館の古い町並みを歩いてみよう ~洋館と赤レンガ倉庫が残る坂の町~(北海道)

北海道函館市・元町の風景
北海道函館市・元町の風景(画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます
兵庫県神戸市・北野町の風景
兵庫県神戸市・北野町の風景

漁港を中心に発達した、漁村集落の町並み

 港町の多くでは漁業も盛んで、明治時代以降の鉄道などの発達によって物流の機能が縮小してからも、伊豆の下田港(東廻り航路の拠点で、開港地ともなった)のように漁港を中心とした形で町の発展が続くこともあります。

 そんな、漁港を中心とした集落の中でも規模が小さなものを「漁村集落」といいます。
 離島の中心集落となっている場合も多く見られます。

 漁村集落では、港のある入り江をぐるりと取り囲むように続く通りに沿って、古い家屋が建ち並ぶという町並みが良く見られます。
 また、海沿いの平地にある小さな市街地に、軽自動車が通るのも困難な狭い小路が迷路のように張り巡らされている、というのもしばしば見られるパターンですね。

 中には京都府の伊根のように、漁に特化した「船屋」(海に向かってすぐに出航できるような造りの、船のガレージ)がずらりと建ち並んでいる漁村集落などというものもあります。

 古い町並みが残る漁村集落の例としては以下のようなものがあります。

  • 東京都大島町 波浮港……幾人もの文人墨客が逗留した、離島の港町
  • 京都府伊根町 伊根……船屋が立ち並ぶ風景で知られる町
  • 徳島県牟岐町 出羽島……南国ムードのあふれる、徳島の小さな離島
  • 和歌山県和歌山市 加太……立派な商家も残る、かつての海上交通の要衝
  • 岡山県笠岡市 真鍋島……水軍の本拠地として栄えた瀬戸内海の島
  • 島根県出雲市 鷺浦……出雲大社の北方に位置する、北前船の寄港地
  • 長崎県平戸市 神浦……江戸時代以来の町並みが姿を残す港町
  • 長崎県壱岐市 勝本……歴史の記憶を数多くとどめる、離島の港町

出羽島・加太以外のリンク先は「まちなみ街道」の解説ページ)

出羽島の古い町並みを歩いてみよう ~黒潮が流れる、四国の「南の島」~(徳島県)

徳島県出羽島の風景
徳島県出羽島の風景(画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます

加太の古い町並みを歩いてみよう ~砲台の島も近い、歴史ある港町~(和歌山県)

和歌山県加太の町並み
和歌山県加太の町並み(画像クリックで町並みの紹介ページで進みます)
東京都大島町(伊豆大島)波浮港の町並み
東京都大島町(伊豆大島)波浮港の町並み

産業とともに栄えた港町や、海に面していない河港の町も

 港町の中には、その地域の特産物などを積みだすために発展した場所もあり、例えば醤油の発祥の地としても知られる醸造町の和歌山県の湯浅や、石見銀山で採掘された銀などを積みだした島根県の温泉津など、数多くの例があります。 

 また、港町があるのは海に面した場所だけではなく、川を用いた水運の拠点であった「河港」の港町というものも存在します。
 
 こちらの例としては、淀川水運の拠点であった京都府の城下町・伏見や、伊勢神宮門前町の台所として物資の集まった三重県の伊勢河崎などがあり、どちらも港の跡を公園などとして整備しています。

 このように、かつては最も重要な交通拠点だったとも言える港を中心に発達した町の形は非常に様々で、バラエティーに富んでいることが分かります。 

伏見の古い町並みを歩いてみよう ~「十石舟」が行き来する運河と酒蔵~(京都府)

京都府伏見の風景(画像クリックで町並みの紹介ページで進みます)

自然と共存する日本の原風景、農村・山村集落

 都市的な景観である「古い町並み」とはちょっと様子が違ってくるのが、田園地帯や山間部などにある農村・山村集落です。

 田んぼや山林の間に、茅葺き屋根などが残る伝統的な形式の古い家屋が点在する、というのが典型的な風景ということになりますが、各地に非常に数多くの集落があるので、実際にはその形もさまざまだったりします。
 下の表に、代表的な農村・山村集落の一部を挙げておきます。 

  • 福島県南会津町 前沢……豪雪地帯独特の民家「曲家」が多数残る集落
  • 群馬県中之条町 六合村赤岩……大規模な養蚕農家が、多数残る集落
  • 長野県白馬村 青鬼……「かぶと造り」の大型民家が集まる山村集落
  • 静岡県焼津市 花沢……古代の東海道に沿って家屋が並ぶ「花沢三十三軒」
  • 岐阜県白川村 萩町(白川郷)……世界遺産として国際的に名高い、かつての秘境
  • 富山県南砺市 相倉・菅沼(五箇山)……世界遺産となった、合掌づくりの里
  • 滋賀県東近江市 金堂……近江商人の富が集まる蔵の町
  • 京都府南丹市 美山北……茅葺き屋根の並ぶ山間の集落
  • 鳥取県大山町 所子……大山の火山麓扇状地に残る、伝統的な農村景観
  • 沖縄県竹富町 竹富島……美しい自然あふれる南国の島

(赤岩・花沢・竹富島以外のリンク先は「まちなみ街道」の解説ページ)

 滋賀県の金堂集落や、奈良県に多く見られる「環濠集落」のように、規模が大きくて家屋が密集している集落の場合は、通りに沿って家屋が建ち並ぶような町並みが見られることもあります。
 商工業の発達したさらに大規模な集落の場合は、農村地帯での拠点である「在郷町」に分類されたりもします。

六合村赤岩の古い町並みを歩いてみよう ~養蚕農家が残る山あいの集落~(群馬県)

群馬県旧六合村赤岩の風景
群馬県旧六合村赤岩の風景(画像クリックで町並みの紹介ページへ進みます)
岐阜県白川村萩町(白川郷)の風景
岐阜県白川村萩町(白川郷)の風景
滋賀県東近江市金堂の町並み
滋賀県東近江市金堂の町並み
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