奈良井宿は、中山道の中でも特に険しい道のりで知られた「木曾十一宿」の宿場町です。
川沿いの深い谷間を通る街道に沿って数多くの旅籠屋が建ち並び、「奈良井千軒」と呼ばれるほどでした。
非常に保存状態が良いことで知られる町並みで、「出梁造り」の家々が並ぶゆるやかな坂道の向こうに山が見える景色は、難所の鳥居峠を控えた宿場町の雰囲気を今に伝えています。
この記事では奈良井宿の町並みの見所や、実際にマイカーや鉄道などで古い町並みを訪れるためのアクセス方法について紹介しています。
実際に訪れた際の訪問記も掲載していますので、こちらも参考にしてみてください。
見事な保存ぶりで知られる、木曽路の宿場町
全長1キロメートルに渡って続く、大規模な宿場
奈良井宿(長野県塩尻市)は、江戸と京の町を結んだ中山道の「木曾十一宿」の一つとなる宿場町です。奈良井川が流れる深い谷間を通る中山道沿いに、数多くの旅籠屋が建ち並びました。
「木曾十一宿」は中山道の中でも塩尻と中津川の間、山あいを通る険しい区間となる「木曽路」にあった11か所の宿場町の呼び名です。
中でも奈良井宿は、妻籠宿と並んできわめて保存状態が良いことで知られています。ほとんど当時のままではないかと思える歴史的な町並みが、全長1キロほどに渡って大規模に残されています。
難所鳥居峠を控えた標高の高い場所にあり、峠越えに向かう人々が集まったことで「奈良井千軒」と呼ばれるほどに繫栄した、中山道最大級の宿場でした。
そのにぎわいを今でもたやすく想像することができるくらいに見事な景観で、国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建地区)にも選定されています。
上町・中町・下町の三つの地区に分かれる
大規模な宿場であったことから、南側の上町から中町、下町と三つの区域に分かれています。
上町と仲町の境目では街道が鍵の手に曲がっていて、中町と下町の間は水路で区切られています。どちらの境目も、「鍵の手水場」と「横町水場」という生活用水の水場が目印です。
中町の中心辺りでは街道の道幅が広がっていて、本陣もこの付近にありました。広々とした通りの向こうに山が立ちはだかる眺めが印象的です。
江戸時代初期の問屋の中を見学できる「上問屋資料館」(手塚家・国重要文化財)があり、観光客にも人気があるのがこのエリアです。
峠に向かう道とはいえ、宿場内を通る街道の起伏はそれほど大きくありません。
でも、下町から中町にかけては緩い上りが続いていて、峠越えを控えた宿場という雰囲気が漂う景観となっています。
軒がせり出した、ダイナミックな印象の町並み
建ち並ぶ家屋の特徴は、一階よりも二階のほうが少し前にせり出した「出梁造り」となっていることで、板庇も大きく通りの側に張り出しています。
そのため、同じ木曽路の妻籠宿などに比べると軒線が不ぞろいな印象が強く、このダイナミックな感じが奈良井宿の景観の特徴ともなっています。
木工芸が盛んな木曽路の宿場町らしく、板庇の押さえ木(猿頭)に波打つような細工が施されていたりもして、家々による違いを見るのも面白いです。
なお、奈良井宿の枝郷(間の宿)として隣接していた平沢宿(木曽平沢)と同じく、「木曽漆器」を扱う漆器店もいくつもあります。
・あわせて読んでおきたい記事
木曾平沢の古い町並みを歩いてみよう ~漆器店が通りに並ぶ宿場町~(長野県)
アクセス方法
マイカー利用の場合
国道19号線がそばを通る。高速道路の最寄りは伊那か塩尻インター
「すべて山の中」(島崎藤村「夜明け前)とまで言われる木曽路の宿場町だけに高速道路は通っていませんが、奈良井川のすぐ向こうを幹線国道である国道19号線が走っています。
高速道路のインターチェンジとしては中央自動車道の伊那インターか、岡谷ジャンクションで中央自動車道から分岐する長野自動車道の塩尻インターチェンジが最も近くなります。
伊那インターから国道361号権兵衛トンネルを経由するか、長野自動車道の塩尻インターから国道19号を南下するかのルートで、どちらも30分前後で到着します。
立地の割には意外と便利な印象です。
「道の駅 奈良井木曽の大橋」の駐車場などが無料で利用できる
路の狭い宿場町の中に車で入ると非常に迷惑になるため、周囲に駐車場が用意されています。
分かりやすいのは「道の駅 奈良井木曽の大橋」の駐車場で約30台が利用可能、隣接する「木曽の大橋西駐車場」(EV充電器あり)に50台が停められます。
(いずれも奈良井宿観光の場合は利用可能)
道の駅と宿場町の間にはJRの線路があるため一見遠回りしないといけないように見えますが、実は道の駅の正面に地下道があります。
下町まで、わずか徒歩3分で安全にたどり着くことができます。
鉄道利用の場合
宿場の北の外れにJR中央本線の奈良井駅があって、下町までやはりわずか徒歩3分です。
特急は停車しませんが(まれに臨時停車あり)、各駅停車でも「あずさ」が停車する塩尻駅から約25分ほど、名古屋方面からの場合は「しなの」が停車する木曽福島駅から20分ほどとなっているので、乗り換えてもそれほど時間はかかりません。
ただし、中央本線とは言っても普通列車の本数は1~2時間に1本くらいでそれほど多くはありません。
訪れる際には事前に時刻を確認しておきましょう。
実際に歩いてみた
木曽路の日没は早い?
奈良井宿は好きなので、何度か訪れているのですが、一番印象に残っているのは木曽平沢の古い町並みを訪れた後に奈良井川沿いを歩いてやってきた時のことです。
平沢は奈良井宿を補完する「間の宿」で、この二か所の間は2キロ以下しかありません。
ほんのちょっとだけ中山道を歩く気分を味わってみようと、電車に乗らずに徒歩移動することにしたのでした。
(「木曽平沢」の項を参照)
写真を撮るために陽が落ちる前に着きたかったので、真夏の炎天下を汗だくで急いで歩きましたが、奈良井駅前に到着したのは午後5時頃。
陽が長い季節だからセーフかと思ったのですが、木曽路の宿場町である奈良井は、ほとんど谷底のような場所。太陽はすでに山の陰に隠れてしまっていました。
これは古い町並みを強行日程で訪問した時にはあるあるで、宿場町なんかは山あいの町が多かったりするので、冬場だと午後3時くらいなのに日没後なんてこともあります。
異世界の夕暮れを急ぐ
気を取り直し、頭にかぶったタオルにペットボトルの水をかけてクールダウンしてから、まずは下町から中町へと向かって歩き始めます。
中心部だけではなく、宿場町全体に古い町並みが残っているのが奈良井宿なので、目の前にはいきなり昔の宿場が出現することになります。
時間がちょっとだけ遅かったこともあって観光客の数も割と少なめ。ほとんど完璧な町並みということもあって、特有の異世界感みたいなものが強く感じられます。
最も通りが狭い下町から、ゆるやかな坂道を歩いて行くと中町に入り、道幅が広がってきます。
本陣などが置かれた宿場の中心で、現在でも観光客が最もたくさん集まる区域なのですが、午後5時を回ったこの時は人もまばらな感じでした。
広い通りの向こうに山がそびえる風景は、奈良井宿を代表するものと言っても良いでしょう。
「ゑちごや旅館」(リンク先は公式サイト)を始めとして、今でも実際に宿泊できる旅籠が奈良井宿には何軒か残っています。
その軒先の灯りが早くも点り始めているのを見ながら、暮れ行く中山道を急ぐのでした。
訪れてみたい、甲信越エリアの古い町並み
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