平安京への遷都以来、1000年以上の長い年月にわたって都が置かれた京都。日本を代表する古都として、高い人気を誇る観光地です。
多数の国宝や重要文化財が集まるお寺や神社だけではなく、産寧坂や祇園新橋などの古い町並みも市内の各所に残り、たくさんの観光客でにぎわいます。
しかし京都府内には、観光地としてはそれほど有名になっていない、知る人ぞ知るという感じの町並みがいくつもあります。
山あいのお寺の門前町、世界につながっていた茶問屋街、姿を消した巨大な池の漁業集落、長岡京の跡を通った旧街道沿いの町並みなど、それぞれに特徴的な個性があって、実際に訪れてみるとなかなかに面白い場所だったりします。
この記事では、比較的知名度のある場所から本当に知る人ぞ知るという場所まで、京都府内の個性的な古い町並み6つを取り上げて紹介します。
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鞍馬(京都市左京区)
鞍馬街道の宿場でもあった、鞍馬寺の門前町
京都市の市街地の北側、京都盆地を取り囲む山地の中にある鞍馬山は、古くから霊山として知られていて、密教の山岳修験の場となっていました。
8世紀には山の中腹に、名高い鞍馬寺が創建され、今でも多くの参拝客が訪れます。
その鞍馬山の麓、山地の谷間を流れる鞍馬川に寄り添うように続く道が、鞍馬街道です。
京の町から鞍馬寺までを結び、さらには若狭までを結ぶ街道でした。
この鞍馬街道沿いに、数百メートルの距離に渡って門前町の古い町並みが残っています。
鞍馬寺本殿への登り口にある山門、仁王門の門前を中心に、京町家と異なる太い格子や深い軒などが特徴的な町家が建ち並んでいます。
鞍馬の町は単に門前町であるだけではなく、鞍馬街道の宿場町のような役割も持っていて、丹波方面で生産された炭の集荷地でもあるという、まさに街道の要衝でした。
江戸時代に建てられた炭問屋の瀧澤家住宅は、国の重要文化財に指定されています。
現在では、名物の「木の芽煮」(山椒の実や葉などを使った佃煮)を製造・販売するお店などもいくつもあって、観光客にも人気となっています。
近くには、同じく京都の奥座敷として川床などが人気な貴船エリアもあり、1~2時間くらいのハイキングで訪れることもできます。
料理旅館 ひろ文
天狗の伝説が残る鞍馬寺
鑑真和上の弟子である鑑禎上人が創建したのが、鞍馬寺です。
牛若丸と呼ばれた幼少期の源義経が、鞍馬天狗と一緒に修行をしたという伝説でよく知られていて、パワースポットと呼ばれることもあるようです。
鞍馬街道を見下ろすように建つ立派な仁王門から、枕草子にもその名が出てくるという「九十九折り」の参道を登っていくと、本殿金堂へとたどり着きます。
山の中腹にある鞍馬寺からの眺望は非常に良くて、南東側にある比叡山を一望することができます。
ただ、ここまでの参道を登るのが大変、という方のためにお寺が運行するケーブルカー(鞍馬山鋼索鉄道)があります。運賃代わりのお布施(200円)をすると、乗ることができます。
山門駅から多宝塔駅までの一区間で、実は日本で最短の鉄道路線だそうです。
叡山電鉄の終点、鞍馬駅が最寄り
鞍馬寺の仁王門のすぐ近くに、叡山電鉄鞍馬線の終点である鞍馬駅があります。
叡山電鉄は京阪本線の終点でもある出町柳を起点とするローカル私鉄で、観光路線としても知られます。
広いガラス窓が特徴的な「きらら」という展望車両が特に人気で、晩秋には「紅葉のトンネル」の中を走りぬける様子を楽しむことができます。
出町柳駅から鞍馬駅までは約30分、運賃は470円となっています(2023年11月現在)。
四条河原町などの繁華街からでも、それほど遠くないというのが嬉しいところです。
なお、京都市営地下鉄烏丸線の「鞍馬口」駅は、この鞍馬駅とは全く違う場所にあるので注意が必要です。
(間違いの多い駅として知られているようで、車内でも「貴船・鞍馬方面にお越しの方は、終点の国際会館駅でバスか叡山電鉄にお乗り換え下さい」とアナウンスが流れます)
「鞍馬口通」の交差点(烏丸鞍馬口交差点)の近くにあるということでこの駅名となっているわけですが、敢えてこの駅で降りて鞍馬の町まで徒歩で向かうと、約2時間半かかります。
上狛茶問屋街(木津川市)
世界とつながっていた、茶商の町
木津川市の山城支所(旧山城町役場)そばから南に向かって伸びる奈良街道沿いにはいくつもの茶問屋の建物が建ち並び、「上狛(かみこま)茶問屋街」と呼ばれています。
山城地域では古くからお茶の栽培が盛んで、大和街道と伊賀街道が合流する交通の要衝であるこの町に、生産された茶葉が集められました。
そして、この地の茶商によって加工されてから、すぐ南側を流れる木津川を利用した水運によって神戸港まで運ばれ、そこから海外にまで輸出されていたといいます。
お茶を通じて世界につながっている町だったわけですね。
有名な「福寿園」の本社はこの茶問屋街に隣接した国道24号線沿いにあるのですが、その旧本社付近の小径が「福寿園茶問屋ストリート」として整備されていて、かつての茶問屋街の風景が再現された、見事な景観を目にすることができます。
「山城大仏」がある泉橋寺
奈良街道東側の集落に入っていくと、迷路のように入り組んだ狭い路地に沿って昔ながらの町並みが残り、やはり茶問屋も見られます。
集落の南側には木津川が流れているわけですが、その堤防のそばには「泉橋寺」というお寺があって、その名の通り木津川に架かる「泉大橋」を守護・管理するという役目を持っていました。
(現在の国道24号泉大橋は、明治に架けられた初代以来4代目。先代の泉大橋の橋脚が、今も木津川の河川敷に残ります)
その泉橋寺の門前には、像高4メートルにも及ぶ巨大な地蔵石仏があって、「山城大仏」とも呼ばれています。
1300年前後に造立されて、その後の戦乱で大部分が焼けてしまったものを、1700年頃に頭部などを再び復元したもので、地蔵石仏としては日本最大だそうです。
茶問屋街の南端すぐそばに当たる場所なので、ぜひこちらも訪れてみて欲しいとおもいます。
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JR奈良線上狛駅が最寄り、駅付近には環濠集落も
近くにはJR奈良線の上狛駅があり、駅前通りを歩いて国道24号線を渡り、徒歩10分弱で上狛茶問屋街にたどり着きます。
実はその上狛駅の周辺一帯は、「上狛環濠集落」という中世以来の歴史を持つ環濠集落で、こちらにも大規模な町並みや、集落を取り巻いていた濠の跡などが残されています。
集落内を南北に貫く奈良街道は山背(やましろ)古道の一部でもあり、同じ通りに面した茶問屋街もその古道沿いということになります。
このように、上狛では2つの古い町並みが南北に並んでいることになり、いかに歴史の濃い場所であるかが分かります。
充分に時間を取って町並み歩きを楽しむのが良いでしょう。
東一口(久御山町)
今はなき「巨椋池」の漁業集落
東一口と書いて「ひがしいもあらい」と読みます。難読地名としても知られる集落です。
昔、京都市街の南側には「巨椋池」という淀川とつながる広大な池が広がっていて、水運などに利用されていました。
東一口は、その巨椋池の西側に造られていた長大な堤(大池堤)の上にあった集落で、島のように南北を水面に挟まれたような形となっていました。
漁業によって生計を立てていた集落だったわけですが、家の目の前からすぐに船を出せる、非常に都合の良い立地だったのではないかと思われます。
しかし巨椋池は戦前の干拓事業によって消滅し、宇治川の南側に広大な干拓地が生まれることになりました。
今でも、地図や航空写真でははっきりと池の様子が分かり、近鉄京都線(秀吉が池の上に作った太閤堤の跡地を走っている)の車窓などから眺めることのできる広々とした農地の風景からも、当時の様子が想像できます。
池の中にあった東一口の集落も、干拓でできた農地に囲まれることになり(集落の南北に排水用の水路は残っています)、漁業集落としての歴史は終わることになります。
東一口(旧山田家住宅)周辺
旧山田家住宅を初めとして、立派な家屋が通りに並ぶ
集落の中を伸びる長い通りに沿って、昔ながらの木造の家屋や蔵などが、いくつも並んでいます。
中でも特に目をひくのが、東一口の漁業権の総帥であったという旧山田家の長屋門で、狭い通りに突然姿を現すその立派さには驚かされます。
現在は久御山町が所有しており、内部は一般公開されています。
現在では農地に囲まれることになった東一口の集落ですが、今でも明らかに周辺の土地よりも高いところを通りが走っており、沿道の家屋の裏側に回ってみると石垣や下の道に降りる階段などがいくつも見つかります。
これが漁業集落だった当時のものかどうかは分かりませんが、池の中を走る堤の上にあった集落、という地形が今もその姿を残しているのではないかと思います。
東一口集落へのアクセスは意外と良い。桜の名所という一面も
東一口の集落があるのは実はそれほど不便な場所ではなく、すぐ東側を国道1号線京阪国道が通っていて、京阪中書島駅から近鉄大久保駅に向かうバス路線が来ています。
バス停は、ローソン久御山東一口店の辺りにあります(2021年に新規設置されたようです)
京阪中書島バス停の時刻表(京都京阪バス公式サイト)
また、旧山田家住宅の北側には見学者専用の駐車場もあるので、山田家住宅を見学するのであればマイカーで訪れることもできます。
ちなみに、東一口集落の面した前川の堤は、桜の名所としても知られています。
川の両岸には約200本ものソメイヨシノの桜並木が続き、春には見事な風景が見られます。こちらもまた、知る人ぞ知る名所と言っても良いかもしれませんね。
西陣・浄福寺通り(京都市上京区)
「西陣織」で知られる、高級絹織物の産地
京都市の上京区と、そこから分区して設置された北区の南端にまたがる西陣エリアは、高級絹織物の代名詞となっている西陣織の生産地として、非常に古くからその名を知られる地域です。
元々は応仁の乱の際に、西軍が陣地を構えた場所というのが地域名の由来となっており、これは西暦1460年頃の話ですから、さすがは京都(洛中)と思わされる歴史の古さですね。
地域内に無数にある狭い路地のあちこちに古い町家が点在しており 歩いていると織機の音が聞こえて来たりして、なかなかに風情が感じられます。
最近では町家を利用したカフェなども数多く、観光スポットとしても人気が出てきてはいますが、市内に数々ある有名観光地に比べればまだまだ落ち着いた雰囲気があるエリアです。
「西陣」と呼ばれているエリアはとても広いのですが、旧西陣小学校の周囲(西陣学区)がその中心と考えて良いでしょう。
その西陣学区にある「手織りミュージアム織成舘」(「西陣織屋建」の町家を利用した、手織物の展示館)周辺の浄福寺通り(大黒町)では、路面を石畳にするなどの景観整備が行われていて、西陣観光の拠点の一つとなっています。
この通りは毎年12月に開催されるライトアップイベント「都ライト」の会場ともなっていて、やわらかい光に照らされた石畳の町並みが、非常に美しい姿を見せてくれます。
京の宿 華 西陣
西陣観光のモデルコース、浄福寺通から富田屋まで
西陣観光と言っても前述のように範囲が広く、なかなかどこを目指せばいいのか分かりにくいのですが、この織成館周辺の浄福寺通り(大黒町)から今出川大宮(千両ケ辻)を下がった「西陣くらしの美術館 富田屋」の辺りまでというのが一つのモデルコースとなっています。
富田屋は西陣を代表する京町家で、かつては呉服問屋でした。2日前までの事前予約により、内部の見学が可能です。お茶席体験など、色々な体験プランも用意されていますので、西陣観光の際にはぜひ立ち寄ってみると良いでしょう。
織成館までは、地下鉄烏丸線の今出川駅または京阪出町柳駅から市バス203系統の「銀閣寺・錦林車庫」行きに乗って「今出川浄福寺」バス停で降り、浄福寺通(角の理容店が目印)をまっすぐ北に向かって歩くと5分ほどで到着します。
西国街道(向日市・長岡京市)
京都と西国を結んだ街道の名残が今も見られる
西国街道は、京都の東寺口(羅生門)から山口県の下関へ向かっていた街道で、長岡京と平安京を結ぶようなルートになっています。
現在でも、向日市や長岡京市の市内を通る旧西国街道沿いには、人々が行きかった当時の様子を連想させる古い町並みが残っています。
旧街道筋の雰囲気が残るルートは、まず向日市側では阪急京都線の東向日駅から須田家住宅まで。
そこから府道67号を経由して大灯篭が目印の「五辻」から阪急京都線との交差地点近くまで「アストロ通り」となっている旧街道が続きます。
この区間の周辺には、大極殿公園など長岡京関連の史跡も数多く、少し街道筋を離れてそれらを見学してみるのも良いかもしれません。
東向日駅から須田家住宅
最も雰囲気が良く残る、向日市内の一文橋北側
線路をくぐると、右側に再び西国街道の狭い道への入り口が現れ、「西国街道」の文字がある橋が見えます。
ここから「一文橋」(かつて通行料として1文が徴収された)までの区間は古い町並みの風情が良く残っていて、路面も石畳での舗装が行われています。
阪急西向日駅からも近いので、この辺りだけを歩いてみるのも手軽で良いかもしれません。
一文橋付近の区間
さらにJR長岡京駅付近まで旧街道は続く
一文橋の辺りで、向日市から長岡京市に入ります。
橋を渡った先、馬場1丁目の複雑な形の交差点にはまた「西国街道」と書かれた道しるべがあって、JR長岡京駅の駅前通り、さらにその南側へと旧街道筋が続きます。
通りは、駅の周辺では「神足商店街」という商店街となっていて、昔ながらの商店街の懐かしい雰囲気を味わいながら歩くのも良いかもしれませんね。
綾部・グンゼ通り(綾部市)
「グンゼ」創業の地の洋風建築群
肌着などの製品で知られる、大手繊維製品メーカーの「グンゼ」ですが、その創業の地は京都府の綾部市となっています。
「グンゼ」は元々「郡是」と書いて、かつて綾部市が属した「何鹿郡」の養蚕業振興を目的とする、というのが社名の由来だということで、綾部の町とは本当に関係の深い会社でした。
今でも登記上の本店は綾部にあり、「グンゼ記念館」となっている旧本社(大正6年建設)の周辺には大正から昭和初期にかけて建築されたグンゼ関連の近代建築がいくつも現存しています。
また、大正時代建築の旧郡是製糸繭蔵が博物苑として一般公開されていて、その一帯は「グンゼスクエア」として整備されています。
それらの建築物は、通称「グンゼ通り」と呼ばれる通り沿いに集まっていて、近代建築がいくつも建ち並ぶ、洋館街のような景観が見られる場所になっています。
(京都府の景観資産登録地区にも登録されています)
ステーションホテル綾部(旧:アールイン綾部)
抹茶スイーツも味わえるグンゼスクエア、駅の南には城下町の町並みも
グンゼ通りに面した「グンゼスクエア」には、昔の製糸業やアパレル事業についての展示が見られるグンゼ博物苑のほかに、綾部の特産品が売られている「あやべ特産館」と「バラ園」があります。
「あやべ特産館」の中には、「綾茶cafe」というカフェスペースがあり、綾部で生産された抹茶を使ったスイーツを食べたり、お茶を飲んだりできます。
「グンゼスクエア」には広い駐車場もあり、ちょうど一休みするのに便利な場所なので、個人的にも良く利用します。
鉄道利用でグンゼ通りを訪れる場合は、JR山陰本線の綾部駅を利用することになります(舞鶴方面と福知山方面への全ての特急列車が停車します)
北口から徒歩で800メートルほど、約10分となります。
なお、駅の南側は城下町以来の古くからの市街地となっていて、本町などの辺りでは通りに沿って町家が並ぶ風景も見られます。
こちらもぜひ訪れてもらえればと思います。
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