温泉津は島根県の西部、石見地方の港町です。
地形的な利点から、温泉津の港は天然の良港として古くから栄え、石見銀山で産出された銀を積み出す拠点ともなりました。
江戸時代には北前船の寄港地となり、明治時代に入っても大阪との間に航路が開設されるなど、海運の拠点としての地位は続きましたが、鉄道の開通によってその繁栄のピークは終わりました。
しかし、名湯の温泉地という顔を持つ温泉津は、石見銀山の関連で世界遺産に選ばれるなどの追い風もあって、近年非常に人気が高まっている町でもあります。
港町としての伝統的な家屋と温泉旅館、外湯の浴場などが同じ通りに建ち並ぶという独特の古い町並みは、他では見られない魅力があります。
この記事では温泉津の町並みの見所や、実際に鉄道やマイカーなどで古い町並みを訪れるためのアクセス方法や駐車場について紹介しています。
実際に訪れた際の訪問記も掲載していますので、こちらも参考にしてみてください。
世界遺産にも選ばれた、歴史ある温泉地
石見銀山の銀を積み出した、天然の良港の港町
温泉津(島根県太田市)は島根県の西部に当たる、石見地方にある港町です。
日本海に面したリアス式海岸の、長く入り組んだ入り江の奥にあるという地形的な利点から、温泉津の港は天然の良港として古くから栄えました。
港町としての繁栄を支えた大きな原動力となったのが、この港が近くの石見銀山で産出された銀を積み出す港としての役目を持っていたことです。
戦国時代には毛利氏によって、銀山周辺一帯の支配拠点とすることを目的とした要塞が築かれ、これが温泉津の本格的な発展の始まりとなっています。
江戸時代には北前船の寄港地となり、明治時代に入っても、大阪との間に汽船による航路が開かれるなど、海運の拠点としての地位を失うことはありませんでした。
しかし、大正時代の初めごろに現在の山陰本線が開通して温泉津にも駅ができたことで、港町としての繁栄の歴史はついに終わることになりました。
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伝統的な温泉地の雰囲気が漂う、魅力的な町並み
木造の温泉旅館や浴場の建物が建ち並ぶ
まさにその地名の通りということになりますが、温泉津の持つもう一つの顔が、平安時代からの歴史を持つ温泉地としての姿です。
多くの人が集まる名湯の地だったことが、港町としての発展にも大きな影響を与えたようです。
現在の温泉津の港は静かな漁港となっていますが、温泉地としての温泉津の地位が変わることはなく、さらには石見銀山の外港として世界遺産にも選ばれたことから、この町は再び注目を集めることになりました。その人気は、近年ますます高まっている感じです。
温泉津駅の北側にある、山あいに伸びる通り沿いには、かつての繁栄の名残である立派な商家などが残る古い町並みが見られますが、この通りは同時に温泉地としてのメインストリートともなっています。
そのため、伝統的な家屋群と温泉旅館、外湯の浴場などが隣接するように同じ通りに建ち並ぶという、他ではなかなか見ることのできない独特の風景が見られ、温泉津の町並みの大きな魅力となっています。
その価値の高さから、この町並みは国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建地区)に選定されています。
港のそばには庄屋屋敷や造り酒屋なども
現在は漁港となっている港がある入り江のそばには、毛利家の家臣としてこの町に入ったあと代々庄屋を務め、廻船問屋や造り酒屋などを営んできた内藤家の「庄屋屋敷」(18世紀ごろの建築)が残っています。
海辺と温泉街をつなぐ通りに沿って、屋敷と塀・土蔵群が長く連なる様子は圧巻で、この町のかつての繁栄ぶりがよく分かります。
温泉津には、重伝建地区となっている温泉街そばの町並み以外に、温泉津駅の周辺に広がる小さな平地にも古い町並みが残っていて(小浜地区)、実はこちらも見ごたえのある風景となっています。
こちらも入り江に近い、「若林酒造」付近の景観などが、良く知られています。
駅から温泉街の方面へと往復するときに、必ず通ることになる町並みなので、こちらもぜひ忘れずに足を止めてみてください。
近年さらに人気が高まる、「薬師湯」などの温泉津の名湯
何軒もの温泉旅館が建ち並ぶ温泉津の町ですが、「泉薬湯」と「薬師湯」の二つの元湯は、外湯として誰でも気軽に日帰り入浴ができるようになっています。
(「泉薬湯」のほうが歴史が古く、こちらは単に「元湯温泉」とも呼ばれる)
特に、新旧の建物が並ぶ「薬師湯」(「庄屋屋敷」の残る内藤家が経営)は人気が高く、大正時代に建てられたという旧館が残っているのは非常に貴重です。
現在は「震湯カフェ内蔵丞」としても利用されていて、その豪華な内部を見ることもできます。
一方、現在外湯として使われている新館ですが、新しいと言っても建てられたのは昭和29年とすでに歴史があり、その内部にはやはりレトロな雰囲気が漂っています。
半円形で広いガラス窓が特徴の休憩室など、モダンで洒落た雰囲気が素晴らしかったです。
屋上からは、旧館越しに温泉津の町並みを眺めることもできます。
「薬師湯」は別名を「震湯」とも言いますが、明治5年の浜田地震の際に湧き出た源泉を使っているからとのこと。
熱いのに、浸かっていると心地よいお湯は、2005年に日本温泉協会の新基準で最高評価の「オール5」と認められていて、当時は中国地方で唯一だったとか。名実ともに名湯だと言えるでしょう。
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アクセス方法
鉄道利用の場合
温泉津駅は便利だが、山陰本線の列車本数は少ない
JR山陰本線の温泉津駅が、町の玄関口となっています。
駅から薬師湯付近までは約1キロ、徒歩17分となっていますが、その途中には小浜と温泉津の古い町並みがずっと続いているので、観光しながら往復するという感じになります。
途中で観光案内所に立ち寄ったり、そのそばにある入り江を眺めたりすることもできます。
この辺りの山陰本線は列車本数が少なく、一日3本停車する特急「スーパーおき」号(鳥取・米子と新山口の間で運行)を含めても、列車は1時間に1本もありません。
特に、昼間には2時間以上も列車が来ないことがあるので、必ず時刻を確認してから訪れるようにしましょう。
https://timetable.jr-odekake.net/station-timetable/3298024002
(JRおでかけネットの温泉津駅時刻表)
温泉津温泉 旅館 ますや
鈍行列車も含めて、列車の組み合わせを検討
山陰地方の主要駅である米子駅や出雲市駅には、山陽新幹線が停まる岡山駅から1時間に1本の特急「やくも」号が直通しています(米子駅まで約2時間10分、出雲市駅まで約3時間前後)
米子駅から温泉津駅までは、特急「スーパーおき」号利用で約1時間半となっています。
また、出雲市駅から温泉津駅までなら、同じく「スーパーおき」号で約40分。
料金はどちらも、岡山駅から温泉津駅まで自由席利用で8,600円です。
ただし、温泉津駅に停まる特急列車の本数は1日3本だけなので、鈍行を利用することも考える必要があります。
この場合、出雲市駅からの乗り換えで約1時間20分となります。
(時刻、料金はいずれも2024年1月現在)
列車本数が限られる山陰本線なので、時間帯に合わせて組み合わせを選ぶと良いでしょう。
料金は、出雲市から鈍行利用のほうが、特急利用よりも1000円以上安くなります(自由席利用での比較)。
マイカー利用の場合
温泉津インターが利用可能
山陰自動車道の無料区間(仁摩温泉津道路)の温泉津インターチェンジが町のすぐ近くにあり、高速道路を降りてから5分ほどで到着することができます。
大変便利なようですが、この山陰自動車道はまだまだ全通には程遠い状況で、米子や松江、出雲市と言った主要都市との間はまだとぎれとぎれにしかつながっていません。
仁摩温泉津道路は全長わずか12キロほどで、利用するかどうかも微妙な感じです。
例えば松江から温泉津までだと、一般国道9号線と短距離の高速道路を行ったり来たりする感じなので、1時間半くらいと距離の割に時間がかかってしまいます。
広島方面からだと、中国道・浜田道と県道温泉津・川本線を経由して1時間40分程度で到着できるルートがあるので、山陽方面からはこのルートを利用するのが現実的でしょう。
温泉津観光案内所 ゆうゆう館の駐車場が利用できる
入り江のそば、古い町並みの入り口近くにある「ゆうゆう館」には無料の駐車場が7台分あり、散策に利用することができます。
町並みを眺めながら薬師湯まで歩いて、10分以内という便利な場所です。
(小浜の町並みまでも同じくらいの距離)
開館時間が、3月~11月は8:45~17:30、12月~2月は9:15~16:30となっているので、利用時間には気をつけましょう。
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駅から歩いて、温泉津の温泉へ ~温泉津再訪記~
駅前通りを、入り江まで
前日の宿泊地だった江津駅から、山陰本線の鈍行列車(1両編成)に乗って三十分、温泉津駅に到着したのは朝の10時でした。
10月の終わりということで空気はひんやりとしていましたが、快晴の空は明るく澄み切っていました。
平日の午前中、列車を降りる人も少なく、歩く人もいない通りを一人で歩き始めます。
重伝建地区になっている、温泉街のある通りまでは駅からは少し離れているのですが、駅のそばにある小さな市街地(小浜)にも古い町並みが残っています。
念仏詩で知られる浅原才市の住んだ家もここにあって、駅前の通りを歩き始めた時点で、町並み観光はスタートと思ってもよいでしょう。
https://www.hongwanji.or.jp/mioshie/story/000626.html
(浄土真宗本願寺派のサイトに掲載されていた、浅原才市にまつわる法話)
若林酒造付近でクランクするように折れ曲がる通りを進んでいくと、カーブする道の向こうに海が見えてきます。
これが、温泉津が港町として発展するきっかけになった入り江の先端で、現在では漁港となっています。
温泉津の町並みの入り口近く、この海に面した場所には観光案内所の「ゆうゆう館」があり、しばらくその青い水面を眺めながら、一休みしました。
再訪、奇跡の温泉街
再び歩き始めて、山あいの通りへと入っていきます。
間もなく見えてきたのは、「庄屋屋敷」とも呼ばれる内藤家住宅。途端に、二十年以上前のゴールデンウィークにここを訪れた時の記憶がよみがえりました。
あの時は友人たちと、軽自動車で延々京都から走って来て、石見地方とはなんと遠いのだろうと思ったものでした。
昨晩泊まった江津は、鉄道利用だと東京から一番遠い町などとも呼ばれる(岡山からでも4時間かかるので)わけですが、隣の温泉津もほぼ変わりません。
山陰地方のその遠さが、個人的には一種の憧れにつながっているような気がします。
その、懐かしの温泉津の町は、その後の重伝建選定などもあってやはり整備は進んだ感じでしたが、町並みの素晴らしさに変わりはありません。明治大正の古い建物が集まるこの温泉街の景観は奇跡的だと思います。
「温泉津温泉」の色あせたアーチ(撤去していないのが好感が持てる)をくぐり、建ち並ぶ温泉旅館の間を歩いて行くと、前方には薬師湯と泉薬湯(元湯)の浴場が見えてきます。この辺りが古い町並みの一番奥に当たるので、町並み歩きは一通り終わったことになります。
ここまで来て、温泉に入らないのはあり得ません。以前に訪れた時は元湯のほうに入りましたが、今回は薬師湯へ。
平日の午前中という絶好の時間帯で、入浴者は他には誰もいませんでした。長年の湯の花が重なって火山の噴火口のようになった浴槽に浸かると、かなり熱いのに心地よくて、ずっと入っていたくなりました(2~3分浸かったらいったんお湯から出るのが正しいそうです)
お湯から上がった後、モダンな休憩室で一休みしてから、隣の旧館が見える屋上で古い町並みを眺めました。
晴れた秋の日の過ごし方として、これ以上のものはないでしょう、きっと。
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