山形県の尾花沢市にある銀山温泉は、銀山川沿いに発展した温泉町です。
その名の通り元々は「延沢銀山」の鉱山町として栄えた場所ですが、江戸時代に入って採掘量が急減してしまい、坑道内で発見された温泉を用いた湯治場として、引き続き栄えることになりました。
明治時代には水害で大きな被害を受けましたが、大正から昭和にかけての復興の際に銀山川に沿って建築された大型の旅館が現在もいくつも残り、その見事なたたずまいから「大正ロマン」の温泉街として人気となっています。
柔らかい光のガス灯が川沿いに並ぶ夜景の美しさが、特によく知られています。
この記事では銀山温泉の町並みの見所や、実際に鉄道やマイカーなどで古い町並みを訪れるためのアクセス方法や駐車場について紹介しています。
実際に訪れた際の訪問記も掲載していますので、こちらも参考にしてみてください。
銀山の町から湯治場へと姿を変えて繁栄を続ける温泉の町
江戸幕府直轄の銀山の町から、人気の観光地へ

山形県の東部、宮城県境に接する尾花沢市にある銀山温泉は、奥羽山脈の西側を流れる銀山川沿いの山峡に発展した温泉地です。
その名の通り元々は、日本三大銀山とも称された「延沢銀山」を中心に栄えた鉱山町で、室町時代の初めにはすでに銀の採掘がはじまっていました。その後、江戸時代に入ると、銀山は幕府の直轄となり、大々的に採掘が行われて多数の人足が集まったことで、一帯は非常に繁栄しました。
しかし、1650年ごろになると採掘量が急減してしまい、坑道からの湧水も問題になったことから、1689年に廃坑となってしまいます。
ちょうどこの頃、鉱脈調査の副産物として、温泉が湧いているのが発見されました。当初は銀山で働く人足などが利用していたのですが、効能が評判になったことから、やがて湯治場として開放されることになります。一帯は鉱山町から温泉の町へと大きく姿を変えながら、引き続き栄えることになりました。
災害を乗り越えたりしながらも、その繁栄は現代まで続き、テレビコマーシャルやドラマの舞台として使われることもしばしば。今では高い知名度を誇る観光地となっています。
かつての町の繁栄を支えた銀山の跡は「延沢銀山遺跡」として国の史跡に指定されて、 保存が行われています。
大型の木造旅館が建ち並ぶ、貴重な風景

1913年(大正2年)に大水害によって大きな被害を受けた銀山温泉ですが、その後復興が行われた結果、大規模な木造の旅館群が建ち並ぶことになりました。
今でもこの復興の当時、大正時代から昭和初期にかけて建築された大型の旅館がいくつも残り、銀山川の両岸に続く緩やかな坂道に沿って建ち並ぶ風景が見られます。
1986年に尾花沢市が「銀山温泉家並保存条例」を制定し、景観の保全に取り組んだことも、 この風景が今に残った大きな理由となっています。
銀山温泉の木造旅館の特徴は、単なる和風建築というだけではなく、例えばアール・デコなどの影響を受けた、和洋折衷的な意匠が取り入れられているという点にあります。建物正面の、シンメトリー的な構成のデザインや、手すりの装飾などにその特徴が見られます。
その様子から、銀山温泉は「大正ロマン」の温泉街として人気となっています。
ここからは、これらの大型木造旅館のうち、特に歴史のあるものを四か所、紹介したいと思います。
能登屋旅館本館(1925年・大正14年頃築)
銀山河沿いの坂道を上がって行った先、温泉街の奥に建つ大型旅館です。
木造三階建で、全体的に直線的なデザインがされていて、左右対称のシンメトリー的な構成の姿が特徴的です。その屋根の上に建つ立派な塔屋 (談話室)は、銀山温泉を代表するシンボル的な存在とも言えます。
二階分の高さがある巨大な鏝絵の「木戸佐左ェ門」という文字は、銀山開拓の祖の名前だということです。

古勢起屋本館(1925年・大正14年築)
能登屋旅館本館の向かい側に建つ旅館。1階と2階部分は大正時代の建築で、3階は昭和になってから建て増しされたとみられています。
この時代に世界的に流行した、アール・デコ様式の影響を受けていて、幾何学図形のような直線的なデザインが見られます。
ともに有形文化財に指定されている、能登屋旅館本館と古勢起屋本館の二つの大型旅館が、銀山川を挟んで南北に向かい合って建つ風景は、非常に迫力があります。

旅館 永澤平八(1925年・大正14年築)
能登屋旅館本館に隣り合って建つ、こちらも木造三層建の旅館。
「長澤平八」というのはこの旅館の創業者の名前ですが、隣の能登屋の「木戸佐左ェ門」と並んで、人名が大きく記されている風景は特徴的で面白いです。
この一帯は、銀山温泉の温泉街の中でも、特に見事に大正時代建築の大型旅館が集まっています。銀山川に架かる橋から見上げると、まさに壮観です。

古山閣(1915年・大正4年築)
能登屋旅館などと比べると、少しだけ銀山川の下流側に建つ旅館。
大正4年築ということで、銀山温泉でも最古クラスの木造大型旅館で、木造4階建てのその立派な外観には圧倒されます。2階の窓に並ぶ鏝絵が壮観です。


ガス灯が点る、銀山川沿いの遊歩道

銀山温泉の魅力的を支えているのは、なんといっても温泉街を流れる銀山川の風景です。
緩やかなカーブを描きながら、平地へと向かって流れていくこの小さな川の両岸には、一般車両通行禁止の小道が続いていて、川沿いに続く木造旅館群を眺めながら散策をすることができます。
川の何か所かには橋も架けられていて、この橋の上に立って眺める風景も素晴らしいです。
また、夜になるとその橋の上や遊歩道などに設置されたたくさんのガス灯が一斉に点り、 その温かみのある光と、温泉街の灯りとが美しい夜景を作り出します。
夕暮れ時の散策は、とても風情の感じられる心地よいもので、まるで別世界に来たかのような感覚には、正直感動しました。
部屋から見下ろす銀山川の風景も素晴らしかったので、銀山温泉を観光するときは、やはり現地で宿泊することをお勧めします。
もし現地での宿泊ができず、時間があまり取れないという場合でも、銀山温泉には共同浴場や足湯もあります。
どちらも温泉街の中のわかりやすい場所にありますが、特に足湯は銀山川の川べりのような場所にあり、素晴らしい開放感が感じられます。


銀山川の上流、白銀の滝と疎水坑

温泉街よりもさらに上流側へと銀山川沿いを少し歩いていくと、その突き当りには「白銀公園」 という公園があります。
川を渡る飛び石や朱塗りの橋などが架かり、心地よく過ごせる水辺の空間となっていますが、この公園の主役の一つと言ってよいのが、名瀑「白銀の滝」。落差22メートル、大小日本にわかれるこの滝は、見ごたえ十分と言ってよい迫力があります。
また、公園内の遊歩道沿いには、銀山から出る水を排水するために掘削された「疎水坑」という手掘りの坑道の入り口があり、一般公開されています。立ち入れるのはわずか数メートルほどですが、鉱山見学の気分を少しだけ味わえます。
滝のさらに上流の山中まで行けば、延沢銀山の遺跡 (坑道)が本格的に公開保存されています。

アクセス方法

鉄道・バス利用の場合
銀山温泉の最寄り駅となっているのが、山形新幹線と奥羽本線(山形線)が乗り入れる大石田駅です。この駅前から、銀山温泉への路線バスが発着しています。
山形新幹線利用で、山形駅からの所要時間は約40分、運賃は2010円です。奥羽本線の各駅停車だと所要時間は50分から1時間程度で、運賃は720円となっています(2026年7月現在)
両方を合わせると、1時間に1本程度の運転本数があります。
大石田駅からのバスは、銀山温泉までの所要時間は35分~40分程度、運賃は1000円(2026年7月現在)です。本数は1日5往復で、冬季には増発があります。
https://www.hanagasa-bus-taisei.co.jp/base.html
(はながさバスの銀山温泉路線の案内ページ)
マイカー利用の場合
東北自動車道の福島ジャンクションからつながる、東北中央自動車道(多くの区間が無料)の尾花沢インターチェンジが最寄りのインターとなっています。
高速を降りてからの距離は約15キロくらいで、所要時間は20分弱程度となっています。
なお、銀山温泉の温泉街へは、マイカーの乗り入れは原則としてできません。
旅館を予約してある場合は、それぞれの旅館が温泉街の入り口近くに確保している駐車場を利用することになりますので、旅館からの案内に従ってください。
日帰りなどの場合は、温泉街から徒歩10分ほどの場所にある、日帰り専用の共同駐車場(無料)を利用することになります。
この駐車場は冬季(12月から4月)には閉鎖になるため、この時期には温泉街から1キロほどの場所にある「大正ろまん館」の駐車場に車を停めて、ここからはシャトルバス(往復500円)を利用することになります。
初めての山形県、大正ロマンの川べりで夕涼み ~銀山温泉訪問記~
ついにやってきた山形県、こちらも感動のあつみ温泉
全国47都道府県の各地を色々とめぐってきた中で、その最後となる47番目に訪れることになったのが、山形県でした。
関西からは遠いということと、重伝建地区が存在しないという今や数少ない県(2026年現在でも、まだ一カ所も選定されていない)ということで後回しのような形になってしまっていたのでした。
とはいえ、行ってみたいと思っていた場所はいくつもあって、その筆頭と呼んでいいのが名高い銀山温泉でした。
そういうわけで、ついにやって来ることのできた山形県。
仙台空港からレンタカーで出発してまずは山寺(立石寺)に登り、お昼に板そばを食べて、旧山形県庁の文翔館を見学。そしてそのまま、日本海側まで出て新潟県境に近いあつみ温泉へ向かいます。
毎度ながら結構な移動距離なのですが、初めての県となると、ついつい日程を詰め込んでしまいますね。

ナビの設定がおかしかったのか、あつみ温泉まで到着する前にうっかり高速を降りてしまったのですが、これが結果的に大正解。海岸沿いの国道7号線を走ることになったのですが、ちょうど日本海に沈む夕陽を見ることができたのでした。
あまりの絶景ぶりに車を停めて、完全に陽が沈むまでみんなで海を眺め続けたのでしたが、実はこのあつみの辺りは「夕陽の町」として知られているということなのでした。
新潟の出雲崎と秋田の象潟でもこれに匹敵する夕陽を見たことがありますが、やはり日本海に沈む夕陽というのは見事なものですね。

そうしてようやくたどり着いたあつみ温泉でしたが、ここの旅館がまた大変すばらしく。
広くてきれいだし、東北随一という「庭園大露天風呂」などの温泉設備も充実しているしで、この値段(1人当たり1万円台だった)でこんなところに泊れていいんですかという感じでした。同行したメンバー内でもいまだに話題に出ます。
(楽天トラベルで今調べても、非常に評価高いです。アフィリエイトつきですが、リンク張っておきます)
そして念願の銀山温泉、夏の終わりの夜
そしていよいよ二日目、羽黒山へ立ち寄った後、こちらもずっと見たかった酒田の山居倉庫や金山町の町並みと水路(金山大堰)を見た後、いよいよ銀山温泉へ。
9月に入ったばかりで、まだまだ夏の空気が残る田園風景の中を走り、そこから少しだけ山地に分け入っていくと、もう銀山温泉に到着。もっと山奥のようなイメージがあったのですが、実際には尾花沢市街からでも10キロ少ししかないのでした。
温泉街の中は、観光客の車は侵入が制限されているので、街の入り口辺りの駐車場に車を停めて、そこから銀山川沿いの遊歩道を少し歩いて旅館へ。この時点でもう、写真で何度も見た、木造旅館が建ち並ぶ風景が前方に見えてきて、テンションが爆上がりになります。

宿泊した旅館はこじんまりとした感じで、「昭和館」というその名前からして昭和以降に開業したようでしたが、十分に良い雰囲気。部屋の窓や最上階の展望風呂からは、川沿いの温泉街の中心部を眺めることができました。
さっそく温泉に入って汗を流し、夕食を終える頃には、外はもうすっかり真っ暗。
それではいよいよと、カメラを手にしてみんなで温泉街の散策に出ました。今回の旅行のまさにクライマックス、ということになります。
昼間は暑かったのですが、山峡の川沿いということもあってか、通りにはもう涼しい風が吹き渡っていました。あちこちでガス灯が点る、雰囲気満点の遊歩道を行ったり来たりして写真を撮りましたが、どこも見事に絵になります。
というか、大正期の巨大な木造旅館が目の前にいくつもそびえているというこの風景を見上げていると、現実感がなくなってくるほどで、まるでフィクションの世界の中に入り込んだかのようでした。
みんなでの散策を終えた後、もう一度旅館の外に出て、「山形ラ・フランス ミルクジェラート」というアイスを買ってきて、橋の欄干にもたれて食べました。
旅館街の灯りを眺めつつ、一人で音楽を聴きながら涼しい風に吹かれていると、今年の夏も終わったのだなあという思いが、しみじみと湧き上がってくるのでした。

訪れてみたい、北日本エリアの古い町並み
北日本エリアの古い町並み
函館の古い町並みを歩いてみよう ~洋館と赤レンガ倉庫が残る坂の町~(北海道)

大内宿の古い町並みを歩いてみよう ~茅葺き屋根が連なる宿場町~(福島県)

黒石の古い町並みを歩いてみよう ~「こみせ通り」に並ぶ大型商家~(青森県)

登米町の古い町並みを歩いてみよう ~洋風建築と城下町の「明治村」~(宮城県)



