- 瀬戸内海に面する沼隈半島にある鞆は「潮待ち」の港として栄えた港町で、古くは遣唐使が立ち寄り、江戸時代には西廻り航路の北前船も寄港しました。
また、酔仙島などの島が浮かぶ周辺の海は「鞆の浦」と呼ばれ、万葉集にその名がうたわれるなど、非常に歴史の古い土地です。
近年では、宮崎駿監督の「崖の上のポニョ」の舞台のモデルとなった場所としても、観光客に人気があります。 - 起伏のある狭い土地に、太田家住宅などの古い商家をはじめとした古い家屋がぎっしりと建ち並ぶ様子は、見事なものです。
海のそばぎりぎりまで古い町並みが続く景観は他では見られないものでしょう。 - この記事では鞆の町並みの見所や、実際にマイカーやバスなどで古い町並みを訪れるためのアクセス方法や駐車場について紹介しています。
実際に訪れた際の訪問記も掲載していますので、こちらも参考にしてみてください。
歴史ある景勝地のそばに佇む、商家の町並み
古くは遣唐使や朝鮮通信使も立ち寄った港町
福山市街の南方、瀬戸内海に面する沼隈半島の先端近くにある鞆(広島県福山市)の町は、瀬戸内航路の重要拠点として古い歴史を持つ港町です。
小さな湾の奥に港があるという地形や、瀬戸内海を流れる潮流がぶつかる地点にあるという地理的な特徴から「潮待ち」の港として栄え、江戸時代には西廻り航路の北前船も寄港しました。
その名前は万葉集にも登場し、遣唐使が立ち寄っていた記録もあることから、鞆には千数百年以上もの歴史があるということになります。
鞆の沖合には酔仙島や弁天島などの島が浮かんでいて、周辺一帯の海は「鞆の浦」と呼ばれます。
万葉集で歌われたのもこの鞆の浦の景観で、景勝地としてもきわめて古い歴史があるということになります。
朝鮮通信使の寄港先でもあったことから、海に面した高台には客殿が建てられ、眺望に感動した通信使の正使が「対潮楼」と名付けました。
こちらは現在でも人気の観光スポットとなっていて、当時と大きく変わらない眺望を今も楽しむことができます。
近年では、宮崎駿監督の人気アニメ「崖の上のポニョ」の舞台のモデルとなったということで、観光地としての人気はさらに増しています。
実際、宮崎監督はこの町に長期滞在(崖の上の家だったとか)して、構想を練ったと言われています。
小さな湾と城山の周囲に密集する鞆の町
鞆の町の地形は、なかなか独特です。
狭い平地の周辺は後山と小さな湾、酔仙島などのある海に囲まれ、その鞆湾のすぐ北側には城山があります。
その複雑な地形の場所に、ぎっしりと家屋が建ち並んでいるというのが、鞆の市街地の姿です。
そのため、通りも非常に複雑で、なんとなく歩いていると自分がどの方角へと向かっているか分からなくなってしまうくらいです。この圧倒的な密集感が、鞆の大きな魅力となっています。
メインストリートと言えそうなのが、鞆の町なかを通る県道47号線ですが、カーブや屈曲、大きな起伏のある道で、大型車は通行不可能と思える狭さです。
車で乗り入れるのはお勧めできませんが、道沿いには「鞆の津の商家」を初めとした古い家屋が多数残っていて、町並み保存拠点の「鞆テラス」があるなど、鞆の町並み観光の軸となる通りであるのは間違いありません。
鞆の町並みの特徴ともされる、軒高が不ぞろいな建物の並びも、分かりやすく目にすることができます。
江戸から大正時代にかけて建てられた、数多くの歴史的な家屋が残ることから、この県道47号線沿いの一帯は国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建地区)にも選定されています
立派な商家の残る町並みが、海の目の前にまで続く
かつての繁栄ぶりを象徴するように、鞆の町には非常に立派な商家がいくつも残されています。
その代表となるのが江戸時代に建てられた太田家住宅で、鞆の名物となっている薬用酒の「保命酒」の醸造元だった建物です。細工の施された窓の格子の美しさが印象的ですね。
道を挟んだ向かいにある別邸の「朝宗亭」とあわせて、国の重要文化財に指定されています。
「朝宗亭」は海に面していて、そのすぐ南側にはこちらも江戸時代に造られた立派な石造りの「雁木」(船着き場として使われる石段)が残る鞆の港があります。
雁木のすぐそばには、「いろは丸展示館」(坂本龍馬の海援隊が乗っていた船で、鞆で沈没した)として使われている「大蔵」という立派な蔵も残っていて、まさに「海に面した古い町並み」という風景を見ることができます。
この鞆の港には、雁木の他にも江戸時代の常夜灯や大波止などがすべて残り、全国的にも貴重な港湾の遺構となっています。
アクセス方法
マイカー利用の場合
山陽道の福山東インターから県道22号線などを経由
福山市街の北側にある、山陽自動車道の福山東インターが、最寄りのインターチェンジとなっています。
インターを降りてからは、県道380号から県道22号線をひたすら南下して、約15キロ30分ほどで鞆の町に到着となります。
福山市街を抜けてからはずっと海沿いを走る、非常に気持ちの良いドライブコースです。国道313号線とセットで「ロマンチック街道313」という愛称もついています。
「広島県営鞆町鍛冶駐車場」などが利用できる
県道47号線など、鞆の町なかを通る道は非常に狭く、車同士のすれ違いは困難です。
行政側でも、町なかの通過は避けるようにと呼び掛けているようです。
そのため、利用できる駐車場も海側を走る県道22号線沿いの駐車場がおすすめと言うことになります。
町並みに一番近いのは、行き止まりのようになって終わる県道22号の終点近くにある「鞆の浦第1駐車場」「鞆の浦第2駐車場」なのですが、どちらも駐車台数が20~30台程度とあまり大きくありません。
もし停められないと引き返してくるのが面倒そうです。
そこで、駐車台数が230台分もある立体駐車場の「広島県営鞆町鍛冶駐車場」をおすすめしておきます。
古い町並みを眺めながら、「いろは丸展示館」のある港の辺りまで歩いても約1キロメートル、徒歩10分ほどとなっています。
こちらの駐車料金は4時間まで1時間150円となっています。
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/217/tomonoura-parking.html#greenline
(広島県庁の公営駐車場情報ページ。駐車場の空き情報が確認できます)
鉄道・バス利用の場合
昭和30年ごろまでは、福山との間に軽便鉄道(鞆鉄道)が走っていた鞆の町ですが、現在ではその鞆鉄道が運行するトモテツバスを利用して訪れることができます。
「鞆港」または「鞆の浦」のバス停まで乗車すれば、古い町並みのすぐそばに到着します。
バスは山陽新幹線の「のぞみ」が停車する福山駅の南口から出ていて、所要時間は約30分。料金は530円です(2023年9月現在)
本数は1時間に2~3本と十分に便利と言えますね。
https://www.tomotetsu.co.jp/?page_id=1288#rosenzu01
(トモテツバス公式サイトの時刻表ページ)
半島の南を巡って、夕暮れの港町へ ~阿伏兎岬回りでの鞆訪問~
スリリングな阿伏兎観音経由で鞆へ
鞆へ行くには、福山市内から県道22号などを経由して海沿いを南下するのが一般的におすすめの経路で、過去にも実際にそのルートで何度か鞆の町を訪れています。
福山駅から出るトモテツバスの鞆線も、同様のルートを走っていますね。
もう一つのルートとして、尾道方面から沼隈半島の南側をぐるっと回ってたどり着くという県道47号線経由のコースもあります。
あまり利用する機会はなかったのですが、友人たちと大崎上島と竹原を観光した後に鞆の町に立ち寄ったことがあり、その際にこの南回りのルートを利用しました。
こちらも海と島々を眺めながら走る快適なドライブコースですが、この道を通るなら必ず訪れたい場所がありました。
沼隈半島の南端には、阿伏兎岬という小さな岬があって、海に向かって突き出たその先に、「阿伏兎観音(磐台寺観音堂)」というお寺のお堂があります。
ここの何がすごいかというと、その観音堂はまさに岬の一番先、断崖絶壁の上に建っているのです。
その眺めはまさに絶景、しかもお堂の周りを囲む縁側の床がなぜか海の側に向かって少し傾いているので、ごく低い手すりはあるものの、立っていると海に向かって転げ落ちそうなスリルまで味わえます。
みんな、床に座り込んでましたね。
外からの眺めも、見上げるような崖の上にお堂の建つ風景が、見事なものです。
難点もあるルートだったが、間もなくバイパスが完成
この、西回りのルートには実は一つ難点があります。
鞆の駐車場は、そのほとんどが町の東側の海沿いにあるのですが、西側から来るとなると、県道47号線で鞆の町なかを通過する必要が出てきます。
ところがこの道、まったく昔ながらの通りで、町並みとしては素晴らしいのですが、道幅が非常に狭いのです。
大型車の通過は全く無理で、普通の乗用車でも行き違いができません。
観光シーズンには、よそからやってきた車が大量にここに突っ込んでしまい、進むことも戻ることもできずに大混乱を引き起こしてしまいます。
長年議論になった、鞆の浦に橋を架けるという計画も、このような事情があってのことでした。
広島県庁なども、観光時には町なかは通らずに、後山の上を迂回する「グリーンライン」の利用を呼び掛けていますが、眺望は良いものの、これは結構な遠回りのコースです。
ただ、2024年度には町の南北をショートカットするバイパスの「鞆未来トンネル」が完成予定なので、その後ならば問題なくおすすめのルートになると思います。
さて、実際に訪れたその時は、2月の夕方というオフシーズンだったため、観光客もほとんどいなくて、特に問題なく車を停めることができました。
夕暮れ時の鞆は、昼間の明るい雰囲気とはまた違った、幻想的な港町でした。通りのあちこちに点る暖かな灯りが、路面を照らしています。
城山に上って町と港を一望すると、雁木のそばに立つあの立派な常夜灯が柔らかな光を放つのが見えて、それはまさに鞆の町のシンボルにふさわしい姿だと感じられたのでした。
訪れてみたい、山陽エリアの古い町並み
山陽エリアの古い町並み
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