Episode7

 

瀬戸内町並み紀行 〜御手洗・笠島〜

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鈍行超特急、こだま号。夢の名残り 

 
こちらは真新しいはやぶさ号


農船の集まる大長港。背後の山はみかん畑 

 
御手洗の町並み


かつての華やぎは・・


ご冥福をお祈りします

 

 この紀行文で島を取り上げるのは、Episode2の沖島以来であるが、今回は湖ではなく、ちゃんと海の上にある島である(何が「ちゃんと」なんだか良く分からないが)

 現代でこそ、離島と言えば過疎地の代表格のように考えられがちなのだが、島というのは本来きわめて豊かな場所だったのである。水産資源に恵まれていることは言うに及ばず、水運が交通の主要な手段であった時代には、その拠点として発展した島がいくつもあったのだ。特に、畿内と九州をつなぐ水路としてかなり古い時代から開けてきた瀬戸内海には、繁栄を謳歌した島々がいくつも見られた。

 というわけで今回のテーマは、瀬戸内海に浮かぶ島に残る町並みである。前記のような歴史的経緯から、古い町並みが残る島の多い瀬戸内海なのだが、今回はその中でも特に見事な町並みが現存し、重伝建地区にも選定されている二つの島を取り上げることにする。

 まず最初に向かったのは、広島県の大崎下島である。まずは山陽新幹線で、三原へと向かった。超特急ひかり号は止まらないので、途中でこだまに乗り換える。この辺りを走っているこだまは、未だに初代の新幹線車両が使われている。そばで見ると、車体はかなり痛んでいて、何度も塗装を塗り替えたのが分かる。窓ガラスもなんだか曇っているようだ。編成もむやみに短い。高度経済成長期の香りが漂い、一応新幹線なのに、まるでローカル線にでも乗りかえたような懐かしい気分がする。同行の愉快B・Cもほぼ同年代であるから、同じような感慨にふけっている。

 三原駅前の商店街を通り抜けると、すぐ三原港だ。乗り込んだ船は、意外にもピカピカの新造船だった。いくつかの島に立ち寄りながら大崎下島を目指すのだが、それにしても寄港時間の短いことに驚かされる。桟橋に着いたと思ったらすぐに出発で、各駅停車の電車に乗っているのとあまり変わらない。船旅の情緒などというものはなく、あっけらかんとした感じだ。要するには、島の人々のバス代わりということなのだろう。

 一時間ほどで、大崎下島の大長港に到着する。港の周辺には小さな舟がたくさん停泊しているが、これは全て蜜柑を運ぶための「農船」である。この島は、蜜柑の産地として知られており、大長の町には蜜柑長者が建てた立派な家がたくさんあるという。なかなか面白そうな所なのだが、ここは後回しにして、まずは最初の目的地である御手洗重伝建地区を目指す。ここは港から少し離れていて、歩いて二十分ほどだ。

 御手洗地区の入り口には、大きな地図の載った案内板が立っていた。思っていたよりずっと広く、かなりの規模の町である。当時としては大都会だったはずだ。元々ここは、「潮待ち」「風待ち」のための港町で、北前船や参勤交代の大名が乗った船が集まった場所なのだが、その繁栄のほどを伺い知ることができる。とにかく、能率的に回ろうとコースを決める。だらだら歩いていたら、あっと言う間に半日くらい経ってしまいそうだ。

 一歩足を踏み入れるとさすがは重伝建地区で、さっそく古い町並みである。この瞬間が、町並み巡りをしていて一番楽しい。まず向かうのが、若胡子屋跡である。今は町の会館として使われているこの建物は、かつては島一番のお茶屋としてその名を知られ、何と100人以上の遊女を抱えていたらしい。当時の御手洗は、花街としても全国有数の規模を誇ったのだ。実に面白い町である。

 中に入ってみれば、若胡子屋跡はやはり会館であって、当時の華やかさを想像するのは難しい。しかしここには、かつてお茶屋であったという証拠が残っている。いわゆる「女郎鉄漿事件」の遺蹟である。「鉄漿」は実は「おはぐろ」と読む。知らない方も多いだろう。もちろん僕も知らなかった。昔、既婚女性が歯に付けていた、あのおはぐろである。

 この事件はかなり陰惨なものである。昔、とある花魁が鉄漿がうまくつかないことに腹を立てて、鉄漿を持ってきた禿(カムロ=世話係の女性)の口に煮えたぎった鉄漿を流し込み(あれは、煮えたぎってるものなんですな)、殺してしまったという事件である。禿は苦しみのあまり掌の上に血を吐き散らし、その手形が今でも二階の壁に残っているという。手形はそばで見ることができたのだが、正直言って良く分からなかった。それにしても、当時の人間の命がいかに軽かったのかを感じさせられる、実に嫌な話である。

 ちなみにこの手形、消しても消しても浮かび上がってきたというから恐ろしい。で、その時撮った写真を色々画像処理したのが左の写真。中央すぐ左上に手形らしきものがあるのが辛うじて分かる。それにしても、見るからに恐ろしげな写真になってしまったが、念写とかではありません。念のため。

 

 

                   Chapter2へ続く

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