Episode2

 

湖上の町 〜沖島〜

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わかりやすい、船乗り場


沖島行きの船、その名は「おきしま」。わかりやすい


沖島の集落。中央の赤いのは、「消防艇」


島での足、三輪自転車

 

 

 

 

 

 さて、前回に続き、エピソード2もなぜか滋賀県が舞台なのである。水運の拠点としての米原を考える時、湖上に浮かぶ島に視線が向かうのは当然だった、というのはでたらめであり、理由は特にない。そう、今回の紀行文は、琵琶湖最大の島である沖島がテーマである。近江八幡市に属するこの沖島、湖上の離島としては日本で唯一、400人もの人々が暮らす町があるという貴重な島なのである。郵便局はもちろん、ちゃんと小学校まであるのだ。なかなか面白そうな場所ではないか。
(ちなみに、山陰の中海には大根島という大きな島があり、数千人が住んでいるが、本土と堤防でつながっている)

 なお、今回は同行者がいる。ここでは、仮に彼らを「愉快な仲間たち」(もしくは「愉快A〜C」)と呼ぶことにしたい。ウェブ上ではしばしばありがちなのだが、仲間同士の内輪ネタを書いた文章というのはつまらないものが多いので、できるだけ彼らのことには触れずに済ませようと思う。悪いとは思うけど。

 島であるからには、当然だがまず船に乗らねばならぬ。我々は車に乗り、近江八幡市の堀切港へと向かった。一見、小さな漁港のようにしか見えない(と言うか、事実漁港なのだ)から、フェリーターミナルみたいのを想像していると見落としてしまいそうな港だ。しかし沖島行きの船は、間違いなくここから出航する。写真の通り、船乗り場は一目瞭然である。

 今にも雨が降り出しそうな空の下、しばし船を待つ。目指す沖島は、わずかに霞みながらも、すぐ彼方の湖面に浮かんでいた。釣り人のものらしい小舟が、ゆっくりと沖を横切る。水面を、かすかにさざ波が走る。どこにいるのか、鳥の鳴き声が、辺りに響きわたる。実際には愉快な会話を交わしながらの時間待ちであるのだが、それが無いことになっている以上、静かな雰囲気になってしまうのはお許しいただきたいと思う。やがて、エンジンの音とともに船が港に近づいてきた。

 内輪ネタを禁じられた愉快な仲間は、接岸した船に黙々と乗り込む。鉄道なら車掌さんに当たるのだろう、料金を集めて回る女性の服装が、OL風でおしゃれなのが謎めいている。我々を含めて十人ほどの船客が乗り込んでしまうと、船はさっそくと言う感じで出航した。何と言っても、すぐそこに見えている島なわけだから、時間はかからない。わずか十分ほどで、船は沖島港に接岸した。沖島港の周辺は、地図で見る限り埋め立て地のようだ。ほとんど山ばかりの島だから、この埋め立て地は貴重な平地となっている。

 貴重な湖上の町、と言っても、風景は普通の港町と大きな違いはない。ただ、潮の香りがしない。淡水湖なのだから、当たり前と言えば当たり前である。島の産業は、これも当たり前なのだが漁業である。モロコやワカサギなど、獲れた魚を佃煮にしたものが名物であり、港近くの漁業会館ではそれら名物を観光客向けに売っていた。観光客? と思わず聞き返しそうになるが、この島には観光客もやって来るのである。この日は我々以外に姿を見なかったが、多い日には一日に何十人もがやってくるのだとという。ちなみに、島にはちゃんと工場があって、佃煮の現地生産を行っている。単なる原料として魚をそのまま出荷するより、加工して付加価値をつけて出荷するほうが、雇用面などを含めた経済効果はずっと大きいわけで、小さいながらもなかなかしっかりやっている島である。

 上陸して目に付いたのが、荷台のついた三輪自転車の数の多さだった。道の狭いこの島では、自動車は使えない。消防車も通れないので、消火は水上から「消防艇」で行うらしい。内陸部というものがほとんどないこの島だから、そういうことが可能なのだろう。この「消防艇」、救急車の代わりとしても使われていて、急患を対岸に運ぶ役割を果たしているそうだ。

 それでは、いよいよ島内観光である。観光客が来ているという以上、それなりに見るべきものがあるはずだ。そう信じて、港を後にする。さて、どうなることか。

Chapter2へ続く

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