Episode1
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西口の風景。やはり鳩はここにも
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地図で見ても分かるが、米原の町は、巨大なほうの米原駅によって東西に分断されていて、西口と東口とでは全く別の町のようになってしまっている。駅の周辺に踏切はなく、東西を行き来するにはただ一本の陸橋を渡るか、駅の中を通るしかない。 東西の駅前を見比べると、町らしく見えるのは西口である。ロータリーが整備され、ビルやスーパーが建っている。通りを歩き出せば、その彼方には繁華街の賑わいがあるのではないかと言う気がする。しかし実際には、まさにビルとスーパーがあるだけで、その向こう側に市街地らしい場所はない。結局、すごすごと引き返すか、スーパーの中でハンバーガーでも食べることになる。 これに対して、東口は一見寂しい。改札口を出た途端、思わずごめんと引き返しそうになるほど、何もない。例の近江鉄道米原駅はこの東口にあるのだが、ここを乗り換え客が歩いてきそうには、とても見えない。ああ、やはり駅だけの町なのだなと早合点しそうになるが、実は米原の町は、この東口の側にあるのだ。商店街だって、ちゃんとある。これはあとで紹介する。 そもそも、乗り換えに利用することは多くても、駅の外に出ることが滅多にないのが米原駅である。まして東口の向こう側を歩く機会など、普通ならまず無かっただろうと思う。しかし、古びた小米原駅に降り立った僕は、そのまま巨大駅の中に向かう気にはなれなかった。メインストリートを離れて、脇道を散歩するようなこの感じを、もう少し楽しんでみたい。新幹線が通過していく轟音に背を向け、僕は東口駅前をさらに東へと歩き始めた。もしかすると彦根駅の外れにある、あのホームに向かったときから、僕は何かに背を向け始めて歩き出していたのかもしれない。大げさだが。 さて、歩き出してすぐに、国道8号線にぶつかった。しかし国道を越えた向こう側にも道は続いていて、見ると旅館が数軒並んでいるようだ。小規模な旅館街が形成されているらしく、古い町並みとまでは言えなくても、それなりに雰囲気は悪くない。招き入れられているような気持ちになり、青信号を渡る。旅館街の向こうで小さな交差点を曲がると、一見して旧街道だと分かる狭い通りが、その先に続いていた。 後で調べて分かったことだが、米原は北国街道の宿場町であったらしい。国道8号線から分かれて、集落内を南北に貫く通りが北国街道であり、通り沿いの所々に町家の連なりが残されていた。静まり返ってはいたが、まぎれもなくここが米原の、本来の中心なのである。街灯の柱に取り付けられた「米原商店街」の文字が、それを証明していた。 どこからともなく聞こえてくる「遠き山に日は落ちて」のメロディーが心を駆り立て、さらに街道を北へと進む。別に、陽が落ちたからと言ってすぐに困ることはないのだが、この手の曲には条件反射的に気持ちを焦らせる効果があるようだ。たとえば、閉店前の「蛍の光」とか。それにしても地方の町へ行くと、こういう夕暮れ時に、町中に音楽を流しているのをよく聞くけど、あれは何なのだろうね。時報代わりなんだろうか。 やがて街道は、一軒の旅館と、その手前に立つ道しるべに突き当たった。道しるべに近づき、その文字を読む。そこには、「右中山道」「左北陸道」の文字があった。ここが、中山道と北陸道(北国街道)の分岐点であるらしかった。それは昔も今も、恐らく今後も、ずっと分岐点であり続けるのであろう米原の町を、象徴しているかのような道しるべだった。僕は左右どちらをも選ぶことなく、音楽が鳴り止むまで、その場に立ち尽くしていた。
(後記) 次回(Episode2)は、「湖上の町 〜沖島〜」です |