Episode4

 

水郷を行く 〜潮来・佐原〜

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路地裏的水路


行き交うさっぱ舟、橋の上から


佐原本町


樋橋(ジャージャー橋)

 

 

 

 

 

 

 さっぱ舟が進む水路は、どこかの路地裏のような雰囲気だった。幅が狭くて、両側には民家などが普通に並んでいるみたいに見える。まるで、洪水か何かで一時的に水に浸かった町のようでもある。水が退いたら、ご近所同士で立ち話でも始めそうな雰囲気だ。しかし、頭上にかかるいくつもの橋が、ここが水路であることを示していた。路地裏に、橋はないからだ。柳川などでも、町中の水路を巡ることには変わりないのだが、ここまでの日常感は感じられない。他の水郷巡りでも、味わえない感覚だろう。面白い。

 橋の数がきちんと十二あったのかどうかは良く分からなかったが、とにかく舟は路地裏的水路を抜けて、幅の広い普通の水路に出た。吹き渡る風と、のどかな雰囲気が気持ちいい。周囲にはひたすら広大な田んぼが広がっているのだが、「加藤洲」の名の通りここは元々、周囲を川に囲まれた島状の土地なのである。かつてこの地域には、水路が網の目のように巡らされていたそうだが、今はごく一部しか残っていないらしい。近江八幡と、事情は似ているようだ。

 しばらく先の与田浦で、さっぱ舟はターンして引き返す。本来なら、ここを越えて水路を一周するのだが、今日は風が強いのでここまでなのだと言う。残念なのだが、しかしもう一度あの路地裏水路を通れるのは嬉しい。狭い水路を、苦労しながら対向舟と行き違い、再び閘門を通過した舟は、常陸利根川を横断して茨城県に帰ってきた。十二橋巡りは、これにて終わりである。

 ところが、今日は途中で引き返してきたので、代わりに「前川十二橋巡り」のコースを少しだけ回ってもらえることになった。ラッキーである。実際には橋五つ分くらいで引き返したのだが、こちらは巨大なアーチ橋がいくつも架かっていて、これはこれで面白そうだった。しかし僕としては、どちらか一つを選ぶならやはり加藤洲のほうをお奨めする。建物などは古くはなくても、例えば伊根の舟屋と同じく、歴史的町並みとしての価値があると思う。まともに考えればきわめて特殊な状況であるはずの「水のある路地裏」が、あれだけの日常感を得るまでには、それなりの歴史があったはずだからだ。

 車に戻り、今度は陸上から加藤洲に行ってみることにした。しかし、元来舟でしか行き来できなかった場所なわけであるから、当たり前なのだがなかなか行き辛い。ナビゲーション・システムを頼りに、何とか橋の一つにたどり着くことができた。こうして上から眺めると、確かに川であることが分かる。それにしても、何とのんびりした風景であることか。

 こうして水郷巡りは終わったわけだが、佐原にはもう一箇所見ておきたい場所がある。町の中心部に近い本町に、関東では数少ない重伝建地区に選定されている町並みがあるのだ。佐原の町は常陸利根川と、利根川本流を越えたさらに向こう側になる。しかし今日は、先に一度銚子へ行くことになっているので、帰り道に立ち寄ることになる。わざわざ銚子まで行ったのは新鮮な魚が食べたかったからだが、目論見通り非常に美味くて安い寿司を食べることができて、満足した。

 さて、銚子まで往復して戻ってくると、すっかり夕方になっていた。途中で暴走族の大集団(少年マガジンの世界、あんなの初めて見た)にぶつかったりして、道がかなり混んでいたのである。今日はもう、新幹線で遙か京都へ帰らなくてはならない。従って、佐原の町並みを歩くことができたのは、わずか三十分足らずであった。保存地区の周辺だけしか見ることができなかったわけなのだが、さすがに埼玉の川越と並んで関東最高の町並みとされるだけのことはあって、見事な景観ではあった。

 ここの名物は、「ジャージャー橋」こと樋橋である。灌漑用水を、川を越えて流すための橋であって、橋の両側から溢れた水が流れ落ちているため、この名で呼ばれている。こう書くと熊本の通潤橋なんかに似ているようだが、こちらは町中なのでずっと小さく、全然似てはいない。さっそく行ってみると、ところが肝心の水が流れていない。渇水なのだろうかと思いつつ説明を見ると、「三十分ごとに水が流れ落ちます」とある。どうやら、もはや観光用に水を流しているだけのようなのである。幸い間もなく時間が来て、無事に水が流れるところを見ることができた。タイマー動作のポンプか何かを使ってるのかも知れないが、こういう変わった物を見られるのはやはり単純に楽しい。

 今回は時間が無くて中は見られなかったが、あの伊能忠敬の旧宅など、他にも見所が色々ある。地図好きの僕としては、またいずれ見に来たいと思う。その時はゆっくり町を歩こう。いつになるかは分からないけれど、いつか。

(後記)
 例によって、加藤洲の航空写真をリンクしておきます。中心から少し上あたりに、水路が通っている集落があるのが確認できます。

 次回(Episode5)は、
フェイク・タウン建築散歩 〜小矢部〜」です

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